抄録
埼玉県の松山層群に属する中新世の楊井層は大型植物化石を多く産出する.楊井層の年代を明らかにすることは,同時代の植物化石フロラを比較し,日本の中新世の古植生を復元するうえで重要である.そこで,楊井層の2つの凝灰岩の中に含まれるジルコンでフィッショントラック年代を測定した.その結果,楊井層の最下部凝灰岩(Y-1凝灰岩)のフィッショントラック年代は9.1±0.7 Ma,最上部凝灰岩(Y-9凝灰岩)のフィッショントラック年代は9.6±1.3 Maであった.これらの結果から,楊井層は後期中新世の地層であると考えられる.楊井層の植物化石フロラは群馬県の上部板鼻層の植物化石フロラに年代が近いと考えられる.両植物化石フロラを比較すると,楊井層には山地に生育する植物種の化石は含まれていなかったが,上部板鼻層の植物化石群には山地の植生を構成する種が含まれていた.楊井層の植物化石は板鼻層よりも山地から遠い場所で堆積したと考えられる.