抄録
北半球で氷床の発達したDatum A(2.75 Ma)における寒冷化が軟体動物群にどのような変化を与えているのかを検討すべく,秋田県太平地域,峰浜地域の鮮新世~更新世の軟体動物群を検討した.両地域ともDatum Aより下位の堆積物は上位に比べて細粒堆積物からなる.太平地域からは10産地より105種,峰浜地域では7産地より139種の軟体動物化石が識別された.これらの化石を検討した結果,両地域ともDatum Aより下位の層準では下部浅海帯の,上位では上部浅海帯の群集であることが明らかとなった.また,両地域ともDatum Aより上位で浅海化したにもかかわらず,寒流系種の個体数比が下位の層準より高いことが明らかとなった.さらに,一部例外はあるものの,北海道以北に現在も生息している種はDatum Aより上位の層準より, 中新世型残存種はDatum Aより下位の層準から採集された.以上から,2.75 Maの寒冷化は秋田県の軟体動物群に影響を与えたといえる.