抄録
日本海南西~東縁部陸棚域の表層堆積物から報告された,寒冷性介形虫化石の代表的な3属について,分布を総括した.このうち対馬海峡北東方の山口県沖の陸棚下部から,最多の標本が得られている.これらは更新世中期以降の氷期に,現在より緯度で10°低い海域まで分布南限をのばした際の痕跡と考えられる.この寒冷性種の産出は,現在は北海道北西沖の日本海北東部に見られる冷水系中層水に似た水塊が,氷期には対馬海峡北東方に存在したことを示し,陸棚上部域の夏季水温・塩分が現在より約10℃・0.5‰低かったことを示唆する.この化石の産出から日本海南西縁部では,更新世中期以降の氷期に親潮系氷とは異なる性質の冷水塊が,浅海域に存在したことが推定される.