日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T10-O-7
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T10.文化地質学
高知県土佐清水市における中世石造物の石材と流通
*先山 徹黒川 信義谷川 亘森山 由香里海邊 博史田村 公利
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抄録

考古学分野で歴史的石造物の石材産地や流通を検討する場合,しばしばその形態が有効手段とされる.しかしそれは製品の流通と技術の伝播の両面が考えられる。一方地球科学的同定は石材そのものの移動を意味し,それが製品であったか石材のままであったかは不明である.そこで筆者らはこれまで,考古学と地球科学の両面から総合的に石材産地や流通過程の検討を行ってきている.本発表では高知県南西部の土佐清水市における中世の石造物(特に一石五輪塔)を対象に,それらの特徴と産地・流通の可能性について報告する.具体的作業として考古学分野のメンバーは各石造物の実測と銘文の拓本作成を担当し,地球科学分野のメンバーは岩相記載,帯磁率測定,蛍光エックス線分析をおこなった.  土佐清水市には中世から近世にかけて作成された砂岩と花崗岩の石造物が多く存在している.なかでも泉慶院墓地(図1)と念西寺墓地には砂岩製の一石五輪塔が大量に存在する(土佐清水市教育委員会,2010).それらの製作年代として,このうちの1基に天文15年(1546年)の文字が刻まれているのみで,他は不明であるが,類似した形態のものがまとまって分布することから概ね中世後期のものであると考えられる. これらを構成する砂岩はその岩相と帯磁率によって大きく以下の3種類に区別される.砂岩A:粗粒砂岩~中粒砂岩からなり一部には極粗粒砂岩と呼んで良いものも存在する.しばしば2~3㎜の岩片が点在する.帯磁率は0.20~0.37×10-3SI. 砂岩B:主に中粒砂岩からなり,砂岩Aと比べると細粒で大型の礫を含まない点が異なるが,明瞭に区別できないものも多い.また一部に砂岩Cに似たものも存在する。帯磁率は0.13~0.29×10-3SI.砂岩C:細粒砂岩~微粒砂岩で粒度が揃っている.帯磁率は0.02~0.09×10-3SI.  土佐清水市で塊状の砂岩がまとまって産する地層としては竜串海岸周辺に分布する新第三紀の前弧海盆堆積物からなる三崎層群があげられる.海岸に沿った露頭でできる限り広範囲で無作為に測定した60地点の帯磁率は0.032~0.178×10-3SIの範囲を示し,砂岩Cの大部分がこの範囲に含まれる.一方,歴史的に見て中世~近世の西日本で盛んに採石され各地に流通された砂岩としては和泉層群の砂岩があり,その産地として大阪府南部の阪南市が知られている(三好,2012).阪南市周辺の和泉砂岩露頭および転石111点での帯磁率は0.22~0.46×10-3SIの範囲を示し,砂岩Aおよび砂岩Bの値の多くはこの範囲に入る.また和泉砂岩はしばしば2~3㎜の礫を含む点でも砂岩A・Bと類似する.以上から,砂岩A・Bは和泉層群であり,砂岩Cは三崎層群である可能性が高い.ただし砂岩Bのうち低い帯磁率のものは三崎層群の可能性も残される。 次に考古学的立場から見ると,一石五輪塔はその形態によってⅠ類・Ⅱ類・Ⅲ類の3種類に分けられる.Ⅰ類は畿内に多く存在する一石五輪塔に類似の形態,Ⅱ類は他地域では見られない土佐清水特有の形態で,Ⅲ類は両者の中間の形態を有する.このことと前述の石材との対応を見ると必ずしも1対1で対応しているわけではないが,その中でⅠ類とされたものは全て砂岩AまたはBで製作されており,砂岩Cで製作されたものは見られない.一方形態ⅡとⅢのものは,砂岩Cを主体としながらも一部に砂岩AやBで製作されたものも存在する.このことと石材についての岩石的知見を加えると,以下の結論となる.(1)形態Ⅰ類の一石五輪塔は畿内で製作された和泉砂岩製の製品が搬入されたと考えられる.(2)Ⅱ類とⅢ類の形態で砂岩Cからなるものは,地元の石工によって地元の石材を使用して製作された.(3)Ⅱ類・Ⅲ類のうち砂岩A・Bで作られたものは,石材として搬入された和泉砂岩が地元石工によって加工された,または地元の石工が畿内に出張して製作したものの可能性がある. 土佐清水には一石五輪塔とともに砂岩の石仏が多量に存在する.また花崗岩製の五輪塔も大量に存在している(市村,2013).それらとの関係も含めて総合的に検討することで石材と技術の流通の変遷をたどることができる。 文献市村高男(2013)御影石と中世の流通.高志書院,282p.三好義三(2012)和泉砂岩に関する研究の現状と諸問題.石造文化財,4号,21-34. 土佐清水市教育委員会(2010)加久見城館遺跡群-試掘確認調査報告書-.土佐清水市埋蔵文化財報告1,土佐清水市,93p.

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