日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T3-O-2
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T3.大地と人間活動を楽しみながら学ぶジオパーク
(エントリー)南房総の想定ジオサイト
*吉岡 拓郎竹山 翔悟高木 秀雄
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抄録

【はじめに】 千葉県房総半島南部は,東京湾と太平洋により3方を海に囲まれ変化に富んだ海岸線が続いている.内陸部は県内最高峰の愛宕山(408 m)をはじめ山地と丘陵からなり南房総の海岸線一帯と内陸部の山間部の一部は「南房総国定公園」に指定されている.沖合を流れる黒潮の影響のために四季を通じて温暖な気候で,東京都心から近く,観光地となっている.南房総地域には日本の地質百選「黒滝不整合」や日本の地質構造百選「三浦層群の脈状構造」「千倉層群の海底地すべりとデュープレックス」「江見層群のクモの巣構造」など地質学的に高く評価されている露頭が数多く存在している.また地学教育という観点では南房総は良好な地質観察地として既に知られ,教育の場で活用されている例が存在する(例えば千葉の地層10選). 早稲田大学大学院の授業「地質学とジオパーク」において,本年度はSuzuki and Takagi (2018)が提案したジオサイトの評価法の項目に基づき,受講生は各ジオパークのジオサイトおよびジオパークの活動の評価・発表を行った.発表者のうちの2名は千葉大学において千葉県の地質を学び,房総半島南部を対象地域に新しいジオパークを構想するならば,という仮定のもとジオサイトの設定と評価を行った.本発表では講義内で発表した内容を基に,南房総を特徴づけるジオサイトとジオパークのストーリーになりうる地域の歴史・産業を紹介する.【千葉県の地質の特徴】 千葉県内に露出する地質はほとんどが新生界であり,なかでも南房総には比較的古い,古第三系の嶺岡層群,新第三系の三浦層群および千倉層群が分布する.基盤となる付加体とそれを覆う海溝斜面堆積盆堆積物で特徴づけられる.鴨川市には蛇紋岩類,玄武岩類などのオフィオライト様岩類が産出する嶺岡層群が分布する(高橋ほか, 2016).南房総の海岸沿いには繰り返すプレート境界地震に伴う海成段丘が発達している.平均隆起速度は約4 mm/年であり,これは日本最大級である(宍倉・川上, 2005).【「南房総ジオパーク」の特徴】 南房総の地理的な位置・気候に加え,隆起地形,嶺岡地域の蛇紋岩地質が織りなす地形・地質的特徴が,のちのエコやカルチャーを育む基盤になったというストーリーが展開できると想定している.南房総地域は6市3町から構成されるが,今回は館山市,南房総市,鴨川市,勝浦市,鋸南町の4市1町を「南房総ジオパーク」の範囲としてジオサイトを選定した.ジオサイト数としては30程度を想定している.ジオパークの情報拠点については新設のほか,博物館や資料館,多数の道の駅の活用を見込めると考えている.以下にジオサイトの一例を示す.【ジオ】 地形:白浜の海成段丘, 鵜原のリアス海岸, 嶺岡の地滑り地形 (鴨川松島) 地質:吉尾のボラの鼻 (黒滝不整合), 白浜の大規模海底地すべり露頭, 白浜のシロウリガイ化石, 太海の枕状溶岩, 保田層群のカオス層, 鋸山の向斜構造,館山の沼サンゴ層【エコ】 生態系:沖ノ島 (現在世界に生息する造礁性サンゴの北限)【カルチャー】 歴史:源頼朝上陸地の碑, 南総里見八犬伝と館山城, 赤山地下壕跡 産業:鋸山と房州石, 日本酪農発祥の地, 大山千枚田, 特産品のビワ, 温泉,など【ジオパークの現段階での評価】 今回紹介するサイトの多くはアクセスが容易である.Webページでの解説や現地看板などを整備することで教育の場のみならず観光地,そしてジオサイトとなり得るポテンシャルを持っていると考える.本発表では南房総ジオパークの概要を提案するとともに,具体的なジオサイトの特徴と評価を交えて紹介することで,ジオパークの主体となる地元住民や自治体,地質学会会員に南房総の地質の魅力を発信することを目的とした.現段階で南房総において具体的なジオパーク構想は持ち上がっていないが,2020年にチバニアンの認定により千葉県の地質への関心が高まりつつある.また,千葉県は地学専門の教員数が国内で最も多い (吉田・高木, 2020).千葉県内には銚子ジオパークが既に存在するが,地理的に隔った「南房総ジオパーク」の誕生は千葉県の教育や地質科学の啓発を促進するに違いない.【引用文献】千葉県教育庁教育振興部文化財課, 2020, 千葉の地層10選ガイド.; 宍倉正展・川上俊介, 2005, 地質ニュース, 605, 9-11.; Suzuki, D., Takagi, H., 2018, Geoheritage, 10, 123–135.; 高橋直樹, 柴田健一郎, 平田大二, 新井田秀一, 2016, 地質雑, 122, 375-395.; 吉田幸平・高木秀雄,2020,地学雑,129,337-354.

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