福徳岡ノ場2021年噴火では、VEI4相当(Maeno et al., 2022)の爆発的噴火に伴い、大規模な漂流軽石が発生し、日本各地や東南アジアの沿岸に漂着した。漂流軽石は船舶の航行障害のみならず、発電・工業設備の取水障害にもなりうるため、衛星画像などを用いた現象の迅速な監視が災害対策において重要である。しかし、解析作業は労力がかかり、かつ専門的な判断が必要であった。本研究では、海洋上の漂流軽石を自動で検出し、解析作業を効率化および半自動化することを目的に、衛星画像と機械学習を用いたアプローチを開発した。既往研究では、光学衛星に捉えられた漂流軽石の反射光の特性を利用したルールベースアルゴリズムの確立(Whiteside et al., 2021)や、ランダムフォレストなどの機械学習アルゴリズムを用いた自動検出の試み(Chen et al., 2022)が報告されている。これらの研究は、海上ではっきり認識される比較的分かりやすい軽石の判別には成功していたが、漂流濃度が薄くぼやけて写る漂流軽石の検知には課題があった。
本研究では、そのような検知を目指し、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の導入を検討した。CNNを用いた半自動解析の試みとして、衛星画像中の漂流軽石の有無の判別(画像分類)とピクセルレベルでの漂流軽石の検出(セグメンテーション)の2手法を検討した。画像分類は衛星画像中の漂流軽石の有無を判別し、セグメンテーションは衛星画像中の漂流軽石をピクセルレベルで判別する画像認識問題である。また、各CNNの学習に用いる教師データの作成には、太平洋上に漂う福徳岡ノ場由来の漂流軽石を捉えた2021年8月16日から10月26日までの衛星画像およびそれらに写る漂流軽石をトレースしたデータ(石毛ほか,2024地質学会)を用いた。
まず画像分類ではアルゴリズムにVGG16を使用した。学習データは各日の衛星画像をVGG16に投入可能なピクセルサイズまで分割し、漂流軽石が写っているものと写っていないものでラベル付けをした画像を計2624枚用意した。このうち8割をトレーニング用、2割をテスト用とした。結果、Accuracyが93.5%、Precisionが93.4%、Recallが81.3%、F1 Scoreが86.9%を示すモデルが得られた。
次に漂流軽石のセグメンテーションでは、アルゴリズムとしてU-netを用いた。教師データは192×192ピクセルサイズに分割した衛星画像のうち、ラベルごとのバランスを考慮して漂流軽石が写っている画像のみを使用した。また、それらの画像とペアになる同解像度のラベル付き画像を作成した。これらの画像セットのうち、8割を学習用、2割をテスト用とした。結果についてラベル画像と推論画像を目視で比較すると、概ね類似しているものの、特定の色調の衛星画像や低濃度の漂流軽石において判定精度が悪化する課題が残った。
最後に、これらの手法を組み合わせた漂流軽石追跡手法を提案する。この追跡手法はまず、Sentinel-3で撮影された広域の衛星画像に対し、グリッド分割を行ったうえでVGG16による画像分類を行い、海洋上における漂流軽石の分布可能性が高いエリアを示す。この示されたグリッド内を目視で確認することで、効率的かつ高精度に漂流軽石の追跡が可能となる。また、漂流軽石の分布面積の把握が必要な場合、現段階では誤差が大きいものの、グリッド内のU-netを用いたセグメンテーションにより迅速に計算することが可能である。今後は教師データの拡充とアルゴリズムの改良によって、より高精度かつロバスト性の高いモデルの獲得を目指す。
【参考文献】
石毛ほか,2024.地球観測衛星を用いた漂流軽石の監視技術.地質学会山形大会
Whiteside et al. (2021). Automatic detection of optical signatures within and around floatingTonga-Fiji pumice rafts using MODIS, VIIRS, and OLCI satellite sensors.Remote Sens. 13, 501.
Xi Chen et al. (2022). Spectral Discrimination of Pumice Rafts in Optical MSI Imagery. Remote Sens. 14(22),5854.