日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
Isoproterenol (ISP) 負荷試験による老年者虚血性心疾患の診断
ST, T, R変化の意義及び心筋梗塞例の検討
門脇 孝蔵本 築松下 哲坂井 誠万木 信人村上 元孝
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1982 年 19 巻 6 号 p. 610-616

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抄録

我々は老年者虚血性心疾患の診断に isoproterenol (ISP) 負荷試験を導入し, 負荷後の虚血性ST低下が冠狭窄の診断に有用であることを報告してきた. 今回は多数例でST変化の有用性を確認すると共に, R波高・T変化の診断的価値を検討し, 合わせて心筋梗塞例のISP負荷により梗塞部以外の冠狭窄の評価及び予後の推定が可能であるか否かを検討した.
対象はISP負荷試験を行ない後に剖検の機会を得た60-90歳の150名で, 内訳は有意冠狭窄のない86例のコントロール群 (C群), 少なくとも1枝に75%以上の狭窄を有する40例の冠硬化群 (S群), 負荷時既応に心筋梗塞を有した24例の心筋梗塞群 (I群) である. ISPは0.02μg/kg/minを5分間静注し, 心電図は標準12誘導及びC5-C5R誘導を用いた.
負荷後のST虚血性低下0.5mm以上という基準は有意冠狭窄の有無の診断に対し sensitivity 73.3%, specificity 81.1%であった. また2枝以上の狭窄群でST低下の程度が大だった. 負荷前の陽性Tは各群とも減高例が多く, 一方陰性TはS群の72.2%, I群の81.8%で基線に近づくか陽性化することを認めたが, C群でも51.9%に認められ負荷後のT変化により冠狭窄を判定することは出来なかった. ISP負荷後のR波高 (C5-C5R) は三群とも減高例が多く, 不変・増高例の割合はC群25.8%, S群41.9%, I群18.8%とS群で多い傾向を認めたが有意ではなかった.
心筋梗塞24例のうち負荷陽性の13例中10例に梗塞部支配冠動脈以外の冠狭窄を認めたのに対し, 陰性例では11例中2例と少数であった. またISP陽性例で高率に心筋梗塞の再発を認めた.
以上の結果からISP負荷試験によるST変化が冠狭窄の診断・評価に有用であること, T変化・R波高の意義の少ないこと, 心筋梗塞のISP負荷により梗塞部支配冠動脈以外の冠狭窄の程度を判定出来, 陽性例は再発作との関連の大きいことを認めた.

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