抄録
65歳以上の老年期のうつ病者10名と神経症者10名を対象に, 治療初期と回復期にロールシャッハテスト (ロ・スト) と文章完成法検査 (SCT) を施行し, 同時にハミルトンうつ病評価尺度で臨床症状の評価を行い, 両群の治療初期における差異, およびに治療経過による変化を検討した.
治療初期には, ロ・テストでは神経症群で, 受動的で抑制的に対応しようとしながら, 主観的認知をしやすく, 身体への固着が表面化してしまうといった感情の統合における葛藤的様相が示され, うつ病群で現実吟味力や判断力が低下しやすいことが示された. SCTでは, 神経症群で身体や健康への関心が強く, うつ病群で未来の自己イメージが否定的であるものが多く, 社会的なひきこもりを示すものが多いことが示された. これらの特徴は治療初期におけるうつ病と神経症の鑑別に役立つものと考えられた.
治療経過による変化では, ロ・テストで神経症群が表面的には安定化するものの, より抑制的になることが示され, うつ病群で陰性感情の減少と現実吟味力や判断力の改善が示された. SCTでは神経症群が回復期にも身体や健康への関心が強いこと, うつ病群の中に回復期にも未来の自己イメージが否定的なものがあることが示された. また, 両群に共通してロ・テスト上で生理的エネルギーの低下が示された. これらの特徴は老年期のうつ病者と神経症者の治療の上で留意すべき問題点であると考えられた. 本研究は老年期のうつ病者と神経症者の治療や予後に関連する心理的特徴の一側面を明らかにし得たものと考えられる.