日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年者における能動的起立時の循環動態
鈴木 孝弘青木 久三卞 在福佐藤 孝一新美 達司
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1986 年 23 巻 2 号 p. 172-179

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抄録

65歳以上の老年者30例 (老年群, 平均年齢80.0±6.7歳) および中年者9例 (中年群, 平均年齢51.1±2.4歳) を対象とし, 能動的起立時の循環動態の変化を比較検討した. 体位変換の方法として, 寝台上に臥位とし, 能動的に坐位から立位をとらせ, 立位を10分間保持させた. 循環諸量として, 観血的方法による血圧, 心電図による心拍数, イヤピースを用いた色素希釈法による心拍出量を測定し, 総末梢血管抵抗を算出した. また, 臥位と起立10分後に血漿カテコールアミン濃度を測定した.
能動的起立に伴い中年群, 老年群とも坐位および起立直後に血圧は一過性に降下した. 降下量については両群間に有意差はなかった. 一過性に降下した血圧は速やかに上昇し, 立位保持中の血圧は臥位より高くなった. 中年群では臥位に比して立位の心拍出量は軽度減少し, 総末梢血管抵抗は増加した. これに対し, 老年群では臥位と立位の総末梢血管抵抗には変化がなかったが, 心拍出量は立位で増加した. 老年群における起立時の心拍出量の変化率と総末梢血管抵抗の変化率には負の相関関係が得られた. 血漿カテコールアミンの反応には両群間に差はなかった.
老年群では起立時の総末梢血管抵抗の増加は中年群に比較して低下していた. しかし, 起立時に心拍出量が適切に増加する症例では, 起立性低血圧は起こらないと考えられた. 老年者の起立時の循環調節には心機能の果たす役割が重要であると思われた.

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