日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年患者の服薬コンプライアンス
上島 悦子三上 洋森本 茂人池上 博司三木 哲郎舛尾 和子矢内原 千鶴子荻原 俊男
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1992 年 29 巻 11 号 p. 855-863

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抄録
多病罹患傾向が強く投薬数が増加しがちな老年者において, 薬物治療を安全かつ効果的に行う事を目的に, 本年齢層の服薬に対する意識と服薬コンプライアンスの調査を行った. 当科および関連4施設の内科外来に通院中の626名の患者を対象とし, アンケート調査し, 投薬対象疾患, 処方薬の種類と用法等とを対比しながら年代別に比較検討した. 処方薬剤数は高年齢になるに従い増加し, 40歳未満の患者の平均2.3種類に対し, 70歳以上の患者では平均5.1種類と約2倍の薬剤が処方されていた. これに対し, 自己申告による服薬コンプライアンスは, 各年代を通じ70歳以上の患者で最も良いという結果であった. 服用中の薬剤の量に関して, 適当であると答えた患者のうち服薬コンプライアンスの良好なものが76%を占めたのに比して, 多すぎると答えた患者では67%の低率を示した. また, 薬を服用して調子が良いと答えた患者の服薬コンプライアンスに比べ, 具合いが悪いと答えた患者, 副作用を懸念すると答えた患者で低率を示した事から, 患者の不安がコンプライアンスに影響を与える可能性が示された. 服薬時刻別では, 服薬指示不遵守率が朝 (9%), 夕 (8%), 眠前 (6%) に比し, 昼 (21%)が最も高率であった. さらに, 老年者においては複数の科・病院で同時に投薬を受け, しかもそれを医師に告げていない患者が約3分の1にのぼり, さらに医師から服用薬に関する説明を充分聞いていない患者も多いという状態にあることが示された. このように, 老年者では若年層に比して服薬態度に特徴があり, 安全な治療を遂行する上で, 服薬コンプライアンスの向上にはこうした特徴を理解した上での指導が必要である事が示された.
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© 社団法人 日本老年医学会
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