日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
降圧薬療法下通院中の老年者高血圧患者の3年間予後に関する多施設調査
脳心血管疾患および悪性疾患の発症・死亡について
荻原 俊男森本 茂人中橋 毅日和田 邦男松岡 博昭松本 正幸島本 和明大内 尉義阿部 功三上 洋石光 俊彦小原 克彦Satoshi Takizawa高崎 幹裕増田 敦宗平 純一江頭 正人高川 芳勅清原 裕井林 雪郎中村 敏子藤島 正敏
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1999 年 36 巻 5 号 p. 342-352

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抄録

老年者高血圧例に対する降圧薬治療において, 本邦では欧米に比べCa拮抗薬やACE阻害薬の使用頻度は高いが, 我が国においてこれらの降圧薬による治療例の長期予後については十分に明らかにされていない. 長寿科学総合研究事業「老年者の高血圧治療ガイドライン作成に関する研究」班による共同研究として, 60歳以上の降圧薬治療下の老年者高血圧例700例の3年間にわたる予後追跡調査を実施した. 観察期間中に脱落した58例を除く642例におけるジヒドロピリジン系Ca拮抗薬, β遮断薬, ACE阻害薬, 利尿薬, ジルチアゼム, α1遮断薬はそれぞれ全体の71.3%, 30.4%, 26.2%, 14.0%, 8.6%, 6.4%に投与されていた. これら642例において54例の新規心脳血管疾患発症および15例の同死亡を認め (発症率・死亡率は27.6例・7.81例/千人・年), このうち脳血管事故および心事故の発症率・死亡率はそれぞれ15.1・3.6例/千人・年および10.4・4.2例/千人・年であり, 主にβ遮断薬や利尿薬が用いられた過去の欧米の大規模試験とほぼ同等あるいはこれより低い結果であった. また心脳血管疾患の発症は男性, 高齢, 拡張期血圧高値, および既存心血管合併症を有する例で高率であり, 旧タイプの血管拡張薬あるいは中枢作用性交感神経抑制薬使用例で高率であった. また22例の新規悪性疾患発症 (うち死亡7例) を認めたが, 使用降圧薬の有意な関与は認められなかった. これらの結果はCa拮抗薬を中心とする我国の老年者高血圧に対する薬物療法に対して否定的な見解を与えるものではなかった.

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