2018 年 80 巻 2 号 p. 153-194
本稿は,民事再生手続または会社更生手続下にある企業において,管 財人ないし再生債務者が旧経営陣たる取締役に対して責任追及訴訟を提 起した場合,これは D&O 保険の保護対象に含まれるかという問題につ いて,米国の事例との比較を手掛かりとした検討を行うものである。馴 れ合い訴訟の抑止という観点から,D&O 保険には一般に「被保険者請 求免責条項」が含まれているが,上記訴訟も当該免責条項の適用対象に 含まれるかが,従来の議論からは必ずしも明らかでないためである。 本稿の結論は,以下の二点である。第一に,管財人による訴訟の場合 については,免責条項の適用を否定すべきである。このような管財人に は,上記免責条項が懸念するような馴れ合いのおそれは存しないこと等 を理由とする。第二に,再生債務者による訴訟の場合については,免責 条項の適用を肯定すべきである。米国の場合に比して,再生債務者に対 する監督の程度が弱いこと等を理由とする。