抄録
山間傾斜地に位置する放牧草地の一次生産を明らかにするため,短草型草種(レッドトップ)優占の放牧草地において乾物生産の季節的推移と多量窒素施肥の影響について検討した。1979年と80年には5牧区ずつの慣行窒素施用区(年間窒素施用量10aあたり29kg)および多量窒素施用区(同81kg)それぞれに1群6頭の去勢牛を,81年は両窒素処理区とも窒素施用量を下げ(年間10aあたり11kg)1群8頭の去勢牛を両処理区交互に輪換放牧し,採食量および乾物現存量を測定した。その結果,全植物体現存量の季節的推移(520〜1200g/m^2)は主に地下部現存量の推移に依存し,4月から5月にかけて最大値(1200g/m^2)を示した。地上生体部現存量の推移は葉身よりも直立茎の推移に依存した。枯死部現存量は春と秋に高く,放牧期間中は低い値を維持した。各部位別構成割合の季節的推移は,葉身および枯死部割合では各年次で同様であったが,直立茎および地下部割合の場合には年次で異なった。多量窒素施肥の影響により地下部現存量は年間を通して多用区で有意に高い値(P<0.05)を示した。純生産量は慣用区,多用区それぞれ79年は932g/m^2,1138g/m^2,80年は956g/m^2,1002g/m^2,81年は873g/m^2,1293g/m^2であり,年次および窒素処理区間の変動は主に地下部生産量と採食量の変動に起因していた。