近年,山地では環境保全に関心が集まっているが,本研究では,中国雲南省シャングリラ県の村落を対象に,山地の移動牧畜での家畜群の季節移動経路や日帰り放牧の範囲を把握することで,放牧地内部での負荷の分布状況を明らかにした.放牧負荷は,垂直的な環境変化に応じた季節移動により分散傾向にあり,過度の負荷が生じている部分はほとんどみられなかったが,一部の幹線道路沿いに負荷が集中する傾向もみられた.一方で県全体の放牧地に関する統計資料の分析からは,高山草原の希薄な放牧利用に対して標高が低い放牧地への負荷の偏りが推測された.山地の過放牧対策は,これら標高による負荷の偏りや移動牧畜での放牧地利用による負荷の偏りにも配慮する必要がある.その場合,生産様式の理解を目的とした垂直性の概念に基づく移動牧畜の分析だけではさまざまなスケールで生じる負荷の偏りを把握することは難しいため,水平的な家畜群の移動や分布状況も踏まえた負荷分布の把握が求められる.