2014 年 87 巻 3 号 p. 224-247
本研究は,ベルリンの特殊な歴史を背景とし旧東ドイツのインナーシティ地区においてベルリンの壁崩壊以降大規模に発生した占拠運動の一事例である文化施設タヘレスに着目し,文化的占拠としての場所の変容を,アーティスト・施設運営側への聞取り調査と,タヘレスを巡る外的状況の変遷から明らかにした.占拠運動は分断期に忘却されていた地区の歴史・文化的価値を再発見する役割を担い,ジェントリフィケーションの過程において文化シーン創生を誘発したが,それは経済的価値へと置換されていった.タヘレスは文化的占拠として観光地化し,芸術空間としての真正性において内部批判を生み出したが,一方ではそれにより施設存続が可能になるという葛藤を抱えた.タヘレスは,土地を巡る資本との対立構造において自由空間として意識され,ジェントリフィケーションなどの資本主導の都市変容に直面する文化施設としてシンボリックな意味を担っている.