本稿では,ザンビア北西部において,多民族地域が形成された背景と伝統的権威が地域社会で果たしてきた役割を歴史的に検討し,地方分権化の進む今日のサブサハラアフリカにおいて,伝統的権威のもつ可能性と問題点を考えるための基礎的情報を整理して提供する.ザンビアの前身である北ローデシアは,イギリス南アフリカ会社およびイギリス植民地省によって植民地統治された.保護領期には間接統治の下,チーフという地位が創出され,チーフは植民地統治者側でその末端として行政や司法に携わった.ただし,チーフは地域の実情に応じて統治を行っており,ザンビア北西部のカオンデの領域では,カオンデ以外の民族の移入者を受け入れ,複数の民族で構成される多民族地域が形成された.現在の地方分権化では,地域をよく知るチーフが,地域の統治において重要な役割を果たす可能性をもつ一方で,個人的意向を強く反映した偏った統治を行う危険性も秘めている.