足尾山地北部の古峰ヶ原高原において,斜面堆積物の特徴に基づいて斜面の不安定期と岩塊堆積物の形成プロセスを検討した.調査地には,花闘岩のコアストーン起源の岩塊,トア,および岩塊が集積した地形(岩塊流)がみられる.また,粘土やシルトなどのマトリックスと岩塊,角礫,最終氷期中に降下したテフラ (Ag-KP, Nt-I) を含む相対的に細粒な斜面堆積物もみられる.後者の堆積物は,基岩風化層上面の凹凸に支配されずに広く堆積していることから,線的な動きではなく,最終氷期後半の面的なマスムーブメントによって形成されたと考えられる.一方,岩塊堆積物の形成プロセスは,水流による風化層からの岩塊の洗い出しと,緩速度のマスムーブメントによる岩塊の移動の組合せと考えられる.岩塊堆積物は,細粒の斜面堆積物を刻む谷の中に堆積していることから,最終氷期末期以降に形成されたと考えられる.