近年の集積研究では,地域経済の発展におけるローカルな関係性の重要性が強調される.しかし,ローカルな関係性が地域経済の発展に寄与するための諸条件については,必ずしも明示的に扱われていない.本稿は,この問題に取り掛かる上で,関係性資産の概念とストーパー・サレの「生産の世界」論に注目する.「生産の世界」論は,経済活動の調整装置であるコンヴァンシオンの重要性を提起するだけではなく,「生産の可能世界」概念によって,構築されたコンヴァンシオンが一定期間にわたって安定し,経済発展の資産として機能するための条件を提示する.「生産の世界」論を用いて,実際に児島アパレル産地の分析を行った.児島産地では明示的な協力関係が存在せず企業間関係は競争的であるが,特定の製品部門において,ダイナミックな活動が展開されていた.それらの製品部門では,「可能世界」の経済論理と実際のコンヴァンシオンとの間に,論理的な整合性が認められた.集積地の発展にとって,「可能世界」の経済論理と構造的に両立するようなコンヴァンシオンが構築できるか否かが鍵となる.これらの分析道具を用いることで,関係性資産の条件にアプローチする道が拓ける.
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