宝石学会(日本)講演会要旨
平成24年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
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平成24年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
特別講演 高品質真珠の生産を支えるアコヤガイの育種・養殖技術の開発
真珠養殖技術のイノベーションを目指して
*青木 秀夫
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p. 2-

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抄録

真珠は、アコヤガイの持つ貝殻(生体鉱物)形成の能力によって生みだされる宝石であり、その美しい輝きは、炭酸カルシウム(aragonite)の板状結晶と有機基質が交互に整然と形成されることによりもたらされる。真珠養殖業はアコヤガイという生き物の持つ能力を活用しつつ、自然と生き物が調和した環境のもとで成り立つ産業であり、そのうえで高品質な真珠をつくるための養殖技術の向上を図ることが重要である。わが国における真珠養殖の産業規模は、疾病や有害な赤潮によるアコヤガイの被害のほか、世界的な経済状況の悪化や海外産真珠との競合等により、近年縮小して低迷状態が続いており、この対処として高品質真珠の生産効率の向上のための技術開発が求められている。
 真珠の価値は複数の要因によって決定される。主な要因とは、色調(実体色、構造色)、光沢、巻き(真珠層の厚さ)、シミ・キズの有無、形、大きさ等である。これらのうち、真珠に含まれる黄色色素の量によって決まる実体色(黄色より白色の真珠が高価)は、アコヤガイの挿核施術に用いる外套膜片給与体(ピース貝)の遺伝的な性質が関与し、黄色い貝殻真珠層のピース貝を用いると黄色い真珠ができることが明らかになっている。また、巻きについては母貝の真珠層形成能力に影響され、この性質も遺伝することが示されている。こうした遺伝形質については、親を一定の基準で選抜することによって子どもの性質・能力を改良することが可能であり、すでに実用的な育種技術としてアコヤガイ種苗生産施設で活用されている。 次にシミ・キズについては、最近演者らの研究グループは、挿核された直後のアコヤガイを塩分の低い海水で一定期間飼育(養生)することにより、シミ・キズの形成を低減できることを明らかにした。シミ・キズは真珠の品質を低下させる大きな要因となるので、現在、われわれはこの技術の普及に向けた実用研究を継続している。そのほかの要因である構造色、光沢については、貝の性質や漁場の環境の影響に関する基礎的知見が乏しく、今後それらの評価と技術開発への展開が期待される。
 真珠養殖の生産性を向上させるためには、真珠品質の改善のほかに、生残率の高いアコヤガイをつくることも重要である。特に、養殖現場では夏季のエサ不足による衰弱や疾病によるアコヤガイの死亡が問題となっていた。演者らの研究グループでは、その対策としてアコヤガイの貝殻を閉じようとする力(閉殻力)を指標とした選抜育種による貝の生残率の改善効果を明らかにするとともに、現在では本技術の実用化に取り組んでいる。
 そのほか、大学等研究機関による最近の研究の成果として、アコヤガイのゲノム(すべての遺伝情報)の解読や真珠層形成に関与する遺伝子の探索・特定およびその機能の解明が進められている。これらの成果はアコヤガイという生き物、そして真珠をつくる機構の理解のほか、高品質真珠を生みだす優れたアコヤガイをつくる技術の開発に応用が可能である。また、これまで困難であった真珠の光沢および構造色の程度を計測する技術の開発と実用化(製品化)が進められている。この成果は、真珠養殖技術の高度化のみならず、品質を客観評価することで流通も含めた真珠産業全体に対しても貢献が期待される。こうした基礎的研究の成果を、真珠産業の発展に活かしていくため、研究機関と真珠関係者(生産~販売)が連携し、現場での新しい技術の開発・導入に努める必要がある。

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