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2001 年 9 月頃より Be 拡散加熱処理がほどこされたコランダムの流通が始まった。 Be が軽元素であり、拡散している濃度も極めて低いため、従来鑑別ラボで使用されていた蛍光 X 線元素分析装置では検出できず、 SIMS やLA-ICP-MS といった高感度の質量分析装置が必要となった。 Be 処理が発覚した当初は未処理のコランダムには Be が内在しないと考えられていたため、 LA-ICP-MS 分析で Be が検出されれば外部起源拡散処理であると考えられてきた。しかし、その後、 Be 処理が行われていないコランダムにも Be が検出される事例が複数報告され(Shen et al, 2007)、分析結果の解釈を困難にしている。
Shen ら(2012)はマダガスカル、イラカカ産の天然ブルーサファイア中のクラウド部分に Be を含むことを見出した。さらに透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、クラウド部分を観察した結果、 長さ 20-40nm 幅 5-10nm サイズのナノインクルージョンを発見し、それは Ti-rich なフェーズでα-PbO2(scrutinyite)構造をした TiO2 であることを明らかにしたが、 Be とその結晶についての関連性は議論されていない。
本研究の目的は天然起源の Be を含有するサファイア中のナノインクルージョンと Be の関連性を調べることである。
本研究では、マダガスカル、ディエゴ産未処理のブルーサファイアを 30 個使用した。 Be や Be と同時に検出される微量元素を測定するために LA-ICP-MS を用いた。 LA-ICPMS は LA 装置として ESI UP-213、 ICP-MS として Agilent 7500a を用いた。また、 TEM 観察を行うため、 FEI 社 Helios NanoLabo G3CX を用いて FIB 加工を行い、 JEOL 社 JEM 2100F を用いて TEM 観察を行った。
実験に用いたサンプル 30 個のうち 27 個から Be が検出され、一番多い箇所で 26.0ppm であった。 Be の他、 Mg、 Ti、 V、 Fe、 Nb、 Sn、 Ta、 W、 Th が検出されたが、 Be と相関がみられたのは Nb、 Ta であった。
Be を含有するサファイアの TEM 試料を作成し、 TEM 観察を行った結果、長さ 20-40nm 幅 5-10nm のナノインクルージョンが検出された。このインクルージョンを EDS 分析した結果、 Al, Ti, Fe, Nb, Ta が検出されたが、バルクからは Al, Fe しか検出されなかった。検出器が C 以上の質量数を持つ元素を測定可能なものであったため、 Be は測定できてはいない。またこのインクルージョンはコランダムと別の相であることが判明したが、相の同定はできなかった。
Be を含有するマダガスカル・ディエゴ産天然ブルーサファイアに含まれるナノインクルージョンは、 Ti、 Nb、 Ta を含み、 Be がナノインクルージョンと関係があることが示された。しかしそのナノインクルージョンの相は確定しておらず、今後の課題としたい。