抄録
日本トライボロジー学会は主として工学における摩擦・摩耗・潤滑に関する分野をカバーしている.しかしこのトライボロジーはバイオ分野を初めとして様々な分野とも関わりをもっている.個人的には数年前,高松で行われた全国大会の特別講演で歯ぎしりによる摩耗の激しさに驚いた経験がある.歯科理工学の分野においては歯(義歯)の摩耗やかみ合わせの接触圧力,歯の摩擦,歯の研磨技術など非常に関連性があるが,我々はこの世界をあまり知らない.したがって二つの学会の連携を考えたときに,我々は現代の摩擦・摩耗理論,試験法を紹介することで,歯科理工学で行っている解析技術に貢献できると考えるし,歯科理工学からはトライボロジー現象の特異な環境における科学的・工学的な興味を提供して貰えると考える.
歯の摩耗機構として,歯磨きペーストの研磨剤がエナメル質や義歯母材を摩耗させるのは,硬いもので軟らかいものを擦るときのアブレシブ摩耗であるが,それを定量的なモデルで説明できれば,新たな材料開発につながる.研磨された歯の表面粗さの違いが与える食感の違いは人間のフィーリングに影響するので,新たなトライボロジーの分野の開拓に繋がる.また,我々は摩擦・摩耗を制御するために工学表面のテクスチャリングに関心をもっているが,歯の表面の微細な凹凸はまさにテクスチャリングの例であり,その凹凸に保持された唾液が多分潤滑油の働きをし,噛み心地や食物(異物)の歯への凝着・移着を阻止していることが想像される.この辺の解明は工学的にも十分利用可能なアイデアとなる.
以上述べたような例を挙げながら両学会の連携の接点を探っていきたい.