下垂体転移による尿崩症を合併した肺腺癌の一例を報告する.症例は63歳の男性で, 1日4-5lの多飲.多尿を主訴に受診した.尿比重1.003, 尿浸透圧102mOsm/kg, 血清浸透圧298mOsm/kg, 血清ADH0.7pg/mlで, 飲水制限試験にて血清浸透圧313mOsm/kg, 尿浸透圧137mOsm/kgで, 尿浸透圧/血清浸透圧は1以下のままでかつADH値も0.8pg/mlと無反応であることより尿崩症と診断した.下垂体前葉ホルモン値には異常を認めなかった.血清CEA高値で, 胸部異常影を認め精査にて肺腺癌と診断した.頭部単純X線ではトルコ鞍底・鞍背の骨破壊像を認めた.頭部MRI (T1強調像) では下垂体後葉に腫瘤影と骨破壊像を認め, 同部の高信号の消失も認めた.肺腺癌の下垂体転移と診断し, トルコ鞍部に放射線照射後, シスプラチンとイリノテカンの抗癌剤治療を施行したが, 症状の改善および腫瘍の縮小は認められなかった.