高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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シンポジウム II : 進行性失語をめぐる諸問題
原発性進行性失語 : その症候と課題
小森 憲治郎
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2012 年 32 巻 3 号 p. 393-404

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抄録

原発性進行性失語 (primary progressive aphasia : PPA) の主要3 類型の国際臨床診断基準に該当する自験例を通して, わが国の PPA の臨床像に関する特徴について報告した。左側優位のシルビウス裂周囲の萎縮と血流低下を認めた進行性非流暢性失語 (progressive non-fluent aphasia : PNFA) 例では, 喚語困難と失構音による発話障害が著明であり, モーラ数の多い単語や文表現に困難が際だった。また発話障害に加え仮名書字障害が認められた。一方, 理解は単語および文レベルにおいても比較的保たれていた。左側優位に側頭葉前方部の萎縮を呈した意味性認知症 (semanticdementia : SD) 例では, 復唱が良好である一方, 呼称と語理解の障害が顕著で, 漢字語に選択的な表層失読を認める典型的な語義失語像を示した。PPA に新たに加わった logopenic progressiveaphasia (LPA) に該当する例では, 語想起困難のための頻回の休止を伴う流暢性の自発話と文で著明な復唱障害を特徴とし, 自己修正を伴う音韻性錯語が認められ, 伝導失語の範疇と見なされた。ただし典型的な伝導失語とは異なり, 文レベルの理解障害は他の PPA 症例と比べてもより重度であった。PPA の主要な 3 症候群はわが国の PPA にも適用できると思われる。そして, これらの下位分類から, 背景となる原因疾患の特定や疾患のグループ分けが予想できるならば, それぞれの疾患に応じた治療やケアを展開できるため, PPA の下位分類は臨床家にとってより有用となるであろう。

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© 2012 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
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