高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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32 巻, 3 号
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シンポジウム I : 前頭葉損傷による高次脳機能障害の全人的認知リハビリテーション
  • 蜂須賀 研二
    2012 年 32 巻 3 号 p. 353-354
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
  • 深津 玲子
    2012 年 32 巻 3 号 p. 355-359
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
    ここでは福祉サービスとして提供される生活訓練, 就労移行支援について紹介し, 高次脳機能障害者の主観的 QOL を身体障害者と比較した我々の調査を報告する。国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局では, 身体障害者と高次脳機能障害者を対象に, 自立訓練 (生活訓練, 機能訓練) と就労移行支援を提供している。生活訓練では移動・家事・コミュニケーション等の支援を, 支援ニーズ判定などの評価に基づき定めた個人ごとの目標を達成するよう作成された個別支援計画書に沿って進める。就労移行支援では職場体験訓練, 技能習得訓練, 就労マッチング支援等が行われる。自立支援局を利用する高次脳機能障害者および身体障害者に対して, WHOQOL26 を用いて QOL, バーセルインデックスを用いて日常生活動作をそれぞれ評価したところ, 高次脳機能障害群では日常生活動作はほぼ自立しているが, 生活や自己に対する肯定感が相対的に低いことが示唆された。
  • 橋本 圭司
    2012 年 32 巻 3 号 p. 360-366
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
    高次脳機能障害のリハビリテーションのポイントは, 急性期から回復期, 慢性期にかけて, 「できないこと」を責めるのではなく「できること」を伸ばすポジティブな行動支援を一貫して行うことである。そして, 患者を支える周囲の理解を得るために, 聞き手にとってわかりやすい言葉を用い, できるだけ書面に残して情報提供を行う。また, 本人にとってわかりやすい環境を整える「環境の構造化」が有効なことが多く, 在宅環境を見据えた支援が必要である。高次脳機能障害者に対する集団治療プログラムは, 当事者の社会性向上, 社会参加支援に一定の効果が期待でき, 適切な治療環境を与えることで, 患者と支援者は, 問題の本質に気づき, 適切な代償法を習得する。この分野の支援を充実させるためには, 言葉や文章だけではなく, 医療, 福祉, 教育, 各分野の人々の顔がお互いに見えるような, 真の連携およびネットワークの構築が必要であろう。
  • 先崎 章
    2012 年 32 巻 3 号 p. 367-374
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
    神経心理学的検査では査定しにくい前頭葉症状を呈し, 支援や対応に苦慮した 4 例をあげ, 集団の場を利用した全人的認知リハビリテーション介入を提示した。「症例 1」左前頭葉挫傷後に情動障害, 過度の正義感, 「収束的思考力の低下」を認めた例では, 標語を利用し, 心理グループ活動, 集団体育で「これから良くなるための行動」を点検しながら行動する学習がなされた。「症例 2」右前頭葉腫瘍摘出後に目的をもった行動の欠如, 行動の帰結に無頓着, 行為の開始や持続・制御の障害, 「拡散的思考の低下」を認めた例では, 集団体育で目的や目標を持って行動する練習が効果あった。「症例3」両側前頭葉挫傷後に重度の「無気力症」が持続した例では, 授産施設と地域活動支援センターへの通所が効果あった。「症例4」低酸素脳症後に記憶障害, 被害的な構え, 「情動の洪水」がみられた例では, 安心できる集団の環境下での練習により, 社会的な活動範囲が広がった。治療的な集団の場を利用した介入が, 人間的な生活への復帰につながったと考えたい。
  • ─頭部外傷例の生活の視点から─
    種村 留美
    2012 年 32 巻 3 号 p. 375-383
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
       全人的認知リハビリテーションにおいては, 患者のみならず家族やスタッフ間で協働して, 患者の最終ゴールに向けて最大限の支援が行われる。Wilson や Evans らが Oliver Zangwill センターで全人的神経心理学的リハビリテーションを行うにあたって, 治療的環境, 理解の共有, 有意義で機能的な目的指向性の活動, 代償戦略学習とスキル維持, 心理学的介入, 家族や介護者との協働という 6 つの中核要素に従って展開している。本稿では, この6 つの中核要素を中心に置いた全人的認知リハビリテーションについて, OZC の理念を元に筆者が立ち上げたグループリハを受療した社会行動障害が顕著であった頭部外傷例と母親の内省の変化を交えながら考察した。
       グループリハビリテーションは, 遂行機能を高めることを目的とし, 15 回を 1 クールとして年に 2 回施行した。内容は, 障害に関する勉強会, Activity, 調理実習, 問題解決訓練, 仕事体験シミュレーション, 家族会, 小旅行などで, 課題遂行に当たって, 各自目標を決めまたその遂行を毎回振り返った。
       本症例はグループリハの経過の中で, 重度の症状を示しながらも内省が変化し, 乖離した内省と行動が, 他者をモニタリングすることや他者の意見に傾聴しながら, また遂行を振り返りながら改善し, また家族とも折り合いがついていった。
       全人的認知リハビリテーションにおいては, 対象者と家族およびスタッフが, いかに協働して意味のある活動や戦略, 心理学的介入を用いていくのかを症例を通して具体的に述べた。
シンポジウム II : 進行性失語をめぐる諸問題
  • 河村 満
    2012 年 32 巻 3 号 p. 384
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
  • 河村 満, 石原 健司
    2012 年 32 巻 3 号 p. 385-392
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
       進行性発語失行 (progressive anarthria / apraxia of speech) と称すべき, 進行性失語タイプが存在することを主張し, その詳細についてまとめた。1) 概念 : 進行性発語失行 (progressiveanarthria/apraxia of speech) は原発性進行性失行 (Primary progressive apraxia) として捉えるとわかりやすい。原発性進行性失行 (Primary progressive apraxia) は, 上肢に現れる肢節運動失行/観念運動性失行または発語失行を中心に報告されている。Kawamura and Mochizuki (1999) のレビュー以降, 上肢の症状に関する報告は減少しているが, これは大脳皮質基底核変性症 (CBD) 症状と捉えられるようになったためと思われる。他方, 発語失行に関する報告は増加し, 原発性進行性 (非流暢性) 失語との異同の検討や, 病理的検索がなされている。2) 症例 : 進行性発語失行 (progressiveanarthria / apraxia of speech) を 2 症例提示する。すなわち, 2-1) 典型的発語失行で発症し, 持続した症例, 2-2) 発語失行で発症し, 認知症を呈し, 剖検でPick 病 (FTLD-tau) 診断例, である。
       進行性発語失行は, 進行性運動障害性発語失行の中核として捉えることができ, その病因はタウオパチーが多い。
  • 小森 憲治郎
    2012 年 32 巻 3 号 p. 393-404
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
    原発性進行性失語 (primary progressive aphasia : PPA) の主要3 類型の国際臨床診断基準に該当する自験例を通して, わが国の PPA の臨床像に関する特徴について報告した。左側優位のシルビウス裂周囲の萎縮と血流低下を認めた進行性非流暢性失語 (progressive non-fluent aphasia : PNFA) 例では, 喚語困難と失構音による発話障害が著明であり, モーラ数の多い単語や文表現に困難が際だった。また発話障害に加え仮名書字障害が認められた。一方, 理解は単語および文レベルにおいても比較的保たれていた。左側優位に側頭葉前方部の萎縮を呈した意味性認知症 (semanticdementia : SD) 例では, 復唱が良好である一方, 呼称と語理解の障害が顕著で, 漢字語に選択的な表層失読を認める典型的な語義失語像を示した。PPA に新たに加わった logopenic progressiveaphasia (LPA) に該当する例では, 語想起困難のための頻回の休止を伴う流暢性の自発話と文で著明な復唱障害を特徴とし, 自己修正を伴う音韻性錯語が認められ, 伝導失語の範疇と見なされた。ただし典型的な伝導失語とは異なり, 文レベルの理解障害は他の PPA 症例と比べてもより重度であった。PPA の主要な 3 症候群はわが国の PPA にも適用できると思われる。そして, これらの下位分類から, 背景となる原因疾患の特定や疾患のグループ分けが予想できるならば, それぞれの疾患に応じた治療やケアを展開できるため, PPA の下位分類は臨床家にとってより有用となるであろう。
  • 吉野 文浩, 船山 道隆, 是木 明宏, 斎藤 文恵, 江口 洋子, 三村 將, 吉野 相英, 加藤 元一郎
    2012 年 32 巻 3 号 p. 405-416
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
    ともに意味記憶障害が合併した, 語義失語を呈した semantic dementia (SD) 例 (症例 1) とウェルニッケ失語を呈した非定型アルツハイマー病 (AD) 例 (症例 2) の症候と神経心理学的所見を比較した。両者の対照的な特徴から, “意味記憶障害を合併する流暢型進行性失語”には, 2 つのタイプが考えられ, 症例 1 のような側頭葉前方部を神経基盤とする SD を前方型とするならば, 非生物カテゴリー特異的意味記憶障害を合併した症例 2 のような非定型 AD は (側頭葉極を除く) 側頭─頭頂葉外側に神経基盤が示唆されたことから, 後方型とみなすことができた。両者ともに道具の意味記憶障害がみられたが, 検査場面において, 症例 1 では誤使用がほとんどなく, 使い方がわからない道具の使用はほぼ一貫して拒絶されたのに対して, 症例 2 ではしばしば意味性錯行為が認められた。また, 症例2 はこのような特異な病態を有するにもかかわらず, logopenic progressiveaphasia (LPA) の診断基準 (Gorno-Tempini ら 2011) を満たすことから, 本病態と LPA の鑑別には, LPA の経過と変化という新たな視点が必要であると考えられた。一方, 定型AD 群 31 名を対象に具体的対象物に関する意味障害を検討したところ, 定型 AD のそれは対象物の呼称・理解の障害と特徴的な属性に関する知識の障害から 2 元的に説明され, これまで一元的とされてきたその成因は根本的に見直される必要があると考えられた。これら変性部位の異なる意味記憶障害の特徴を比較することにより, その機能解剖学的な発現機序についても考察した。
  • 一美 奈緒子, 橋本 衛, 小松 優子, 池田 学
    2012 年 32 巻 3 号 p. 417-425
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
    軽度意味性認知症 (SD) 患者 2 症例に対して失われた語彙の再獲得訓練を実施した。その結果, 訓練前に呼称できなかった語であっても訓練すれば一旦は呼称が可能となった。しかし, 長期効果については症例によって差があり, 呼称障害がより軽い症例ほど効果が長期間持続しやすいことが示された。語彙の再獲得訓練の長期効果が少ない症例では, 元々呼称が可能であった語であっても, 訓練を中止すれば経過とともに呼称能力は低下することが示された。すなわち, 軽度の SDであれば, 語彙の再獲得, 保たれている語の保持, いずれにおいても訓練を継続している限り, 一定の効果が得られることが示された。さらに, より効果的な訓練方法を検討した結果, 患者が日常的に使用している物品を訓練語として用いることで訓練がより効率的になることが示された。以上の結果から, SD に対する言語訓練は, 訓練効果が期待できる患者を選択し, 患者の日常生活に即した訓練方法と内容を考慮すれば一定の意義があると考えられた。
シンポジウム III : 高次脳機能障害のアウェアネス awareness
  • 大東 祥孝
    2012 年 32 巻 3 号 p. 426
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
  • 苧阪 直行
    2012 年 32 巻 3 号 p. 427-432
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
    アウェアネスは意識や注意と関連した何かに気づくという心の志向的な状態をさすことが多い。何に気づくかによって, アウェアネスは三つの階層に分けられよう。第一の階層は生物的な覚醒の階層であり, 第二の階層は, 外界の環境に気づいている心の状態であり, 運動的アウェアネスも第二の階層に含まれる。この段階以降のアウェアネスは選択性と容量制約という特徴をもつ。第三の階層は自己や他者の内部 (心) に気づいている心の状態であり, ここには心の理論などの社会的関係性の中での心の気づきが含まれる。このようなアウェアネスの三階層モデルは, 意識の三階層モデル (苧阪 1996) に基づくアウェアネスの位置づけである。本稿ではアウェアネスの三階層を意識の三階層と対応づけ, さらにワーキングメモリのモデルと対応させることを試みた。
  • 長野 友里
    2012 年 32 巻 3 号 p. 433-437
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
    高次脳機能障害者が社会復帰する際には, 高次脳機能障害の程度だけでなく, 自身の障害にどの程度気づいているかが一つの鍵となっている。しかし, 本人の認識がどの段階であるのか, またそれはどのように測ることができるのかについては, まだ十分研究されているとは言い難い。本論では, 高次脳機能障害者の awareness (気づき) の, リハビリテーション (以下リハ) の過程や, 復帰後の家庭や職場における影響, および我々が名古屋市総合リハビリテーションセンター (以下名古屋リハ) において, 高次脳機能障害者の awareness を改善するために行っているアプローチの中から, 効果的であったものについて紹介する。また, awareness の程度を社会復帰後の受診の意味づけからとらえようとした近年の研究を紹介し, 今後の awareness 研究の一つの視点を提供したい。
  • 岡村 陽子
    2012 年 32 巻 3 号 p. 438-445
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
    セルフアウェアネスの獲得はリハビリテーションの効果を高めるためにも必要であるが, 同時に心理的ストレスを高めることもこれまでの研究から指摘されている。セルフアウェアネスが十分に機能すると, 予測よりも低い自分の能力や社会的評価の低下を認識することができるようになる。そのため, 自尊心や自己効力感が低下し, 抑うつや不安といった心理的ストレスを高める結果につながる。近年日本でも積極的に実施されている包括的なアプローチに基づいた認知リハでは, セルフアウェアネスを高めるためのグループ訓練も重要視されている。セルフアウェアネスを高めることを目標としたグループ訓練を考える際には, 心理的ストレスの状態に十分注意して自尊心や自己効力感を高めることに配慮する必要がある。
  • 大東 祥孝
    2012 年 32 巻 3 号 p. 446-452
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
    バビンスキー型病態失認とソマトパラフレニアについて考察した。とりわけ, 筆者の考える, 発現機序仮説について述べた。筆者の仮説に従えば, 左半身の麻痺に気づかないようにみえるのは, 実は決して麻痺している左半身の麻痺を否認しているのではない。右半球損傷によって喪失した左半身の「身体意識」が, 残存する「身体図式」を介して右半身に組み込まれ, 右半身が身体意識のすべてとなる。患者は, 実は麻痺している左半身の麻痺を否認している訳ではない。ソマトパラフレニアは, 自身に帰属しなくなった左半身と現実の麻痺肢との間の矛盾解決のために生じた, 誘発作話, 空想作話である。
シンポジウム IV : エビデンスのある認知症のリハビリテーション
  • 加藤 元一郎
    2012 年 32 巻 3 号 p. 453
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
  • 三村 將
    2012 年 32 巻 3 号 p. 454-460
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
       認知症に対する根治薬物療法が確立されていない現時点では, 認知症の治療戦略は非薬物療法が中心になる。認知症の発症予防, 進展予防に食事や運動の持つ役割は一定の効果が期待されているが, まだエビデンスとしては十分ではない。認知症患者への関わりに際しては, 個々に応じた患者本位の介護をこころがける。そのためには, 疾患ごとの特徴的な問題点に応じた解決策を図り, 患者ごとの背景要因に気を配る。介護者への関わりも大切である。介護者の対応が変わるだけで, 患者自身の問題行動が減り, 介護負担も軽減してくる。
       認知症に対する認知リハビリテーションは集団で行う場合と個人で行う場合に大きく分けられる。集団技法のうち, 有効性のエビデンスが高いのは現実見当識訓練とデイケアである。個人リハビリテーションは病初期の症例について, テーラーメイドに行われるが, コリン作動薬による薬物療法との併用で効果が示される可能性が高い。認知症に対する非薬物療法は基本的に患者本位のアプローチである。したがって, 効果を期待する領域を精神症状や行動面, 生活の質などに広げて考える必要がある。それとともに, エビデンスや勧告度合いのみを頼るのではなく, 個々の症例の丁寧な観察から生じた個別の臨床的関わりを大切にすべきであろう。
  • 長田 久雄, 石原 房子
    2012 年 32 巻 3 号 p. 461-467
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
    本稿は, 2011 年 11 月 12 日に行われた第35 回日本高次脳機能障害学会 (旧 日本失語症学会) 第 35 回大会シンポジウムにおける発表を基に, 認知症の非薬物アプローチの先行研究文献に関して述べることを目的とした。先ず, アルツハイマー型認知症の非薬物療法ガイドライン (2005) の成果を, 次に 2009 年に出版された『くすりに頼らない認知症治療』の内容を紹介した。さらに, 2008 年 1 月から 2011 年 10 月までの文献検索結果に基づいて, 非薬物アプローチの効果の検証を目的とした文献を整理してリストを提示した。アルツハイマー型認知症に関する薬物療法は発展してきているが, 認知症に対する非薬物的アプローチは重要である。非薬物療法のエビデンスに基づく効果の検証は未だ不十分であり, 今後一層の成果の蓄積が望まれる。
  • ─言語聴覚士の立場から自験例を通して─
    飯干 紀代子
    2012 年 32 巻 3 号 p. 468-476
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
    Alzheimer 病 (以下, AD) のコミュニケーション障害の類型化と, それに基づくタイプ別のコミュニケーション支援の自験例を提示し, 日常臨床とエビデンスとの関係, 今後の可能性について論じた。第 1 に, Ward 法を用いたクラスター分析の結果, AD のコミュニケーション障害は, 全体高型, 聴覚障害型, 認知障害型, 構音障害型, 全体低型の5 つに分類された。第2 に, 認知障害型に実施した集団での包括的認知訓練では, AD 群にドネぺジル治験と同等あるいは一部上回る MMSE 総得点の変化を認めた。第 3 に, 聴覚障害型に実施した口形提示が単語の聴こえに及ぼす効果の検証では, 中~重度の聴覚障害を伴う AD に著明な効果を認めた。認知症のコミュニケーション支援では, 高いエビデンスレベルの trial を試みる一方で, 原因疾患や重症度別の詳細な分析や薬効との比較といった仮説検証型の日常臨床の重積が, EBM 実践における自己評価として特に重要な意味を持つと考えられた。
  • 目黒 謙一
    2012 年 32 巻 3 号 p. 477-484
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
    認知機能障害や認知症は, リハビリテーションを施行する際の阻害因子とされ, 「適応外」とされてきた。しかし, 患者が増加している現在, 個々の症例検討を通じてエビデンスを創出し, それに基づく適応を決定することが重要である。アルツハイマー病の場合, 進行を遅延させる抗認知症薬の服用は前提である。主に認知面へのアプローチが中心となるが, エビデンスレベルが高いものは見当識訓練と回想法を中心とするグループワークである。個別的には, 患者の生活歴を考慮した心理社会的介入により, 生活の質 (QOL) を一定期間維持できるが, それは抗認知症薬の薬効の最大化ということでもある。血管性認知症の場合, 血管性危険因子の管理や, 脳卒中の再発防止薬の投与は前提である。歩行訓練時に学習障害を呈した症例や, 重度失語症の音楽療法の症例を提示し, また移乗動作の包括的リハビリテーションや系列動作の問題について知見を提示し, 今後の認知症患者の全人的理解と生活歴を考慮したリハビリテーションの「適応」決定についての問題提起としたい。
原著
  • ─二重経路モデルを適用して─
    狐塚 順子, 宇野 彰, 三盃 亜美
    2012 年 32 巻 3 号 p. 485-496
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
    モヤモヤ病により左側頭葉および左後頭葉に脳梗塞を起こし, 失読失書を呈した 10 歳の右利き男児例において, 二重経路モデルを適用し音読の障害機序について考察した。本症例では軽度に視知覚の問題があるため, 「文字の形態的特徴の検出」および「形態的特徴に基づく文字の同定」の両者が十分に機能しないことから, 非語彙経路と語彙経路の双方に影響があると思われた。加えて非語彙経路では, ひらがなおよびカタカナ 1 モーラ表記文字の音読で正答できない文字が認められ, 漢字非語の音読成績が -2SD 以下であることから, 文字から音韻への変換が困難であると考えられた。語彙経路では, 漢字単語の語彙判断成績が -1.5SD 以下と低いことから, 「文字列入力辞書」が十分に活性していないと思われた。一方, SCTAW 文字─指さし課題と音声─指さし課題, および SLTA 呼称の成績がともに平均域だったことから, 「意味システム」へのアクセスと「意味システム」自体は正常と思われた。
  • ―標準失語症検査得点の改善とその要因―
    日本高次脳機能障害学会社会保険委員会失語症アウトカム検討小委員会 , 種村 純, 小嶋 知幸, 佐野 洋子, 立石 雅子, 三村 將
    2012 年 32 巻 3 号 p. 497-513
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
    言語治療を受けた失語症 597 例の言語治療成績について後方視的検討を行い, 長期的な言語治療効果と言語治療成績に関連する要因について検討した。標準失語症検査 (SLTA) 総合評価尺度合計得点の前後 2 回の成績を比べると, 発症後 3 ヵ月未満から 2 年以上に至るすべての経過群で前後2 回の成績に有意な改善が認められ, 失語症に対する言語治療効果が明らかに示された。SLTA 総合評価尺度合計得点は発症後初期に比べ長期経過後では改善がより小さくなる傾向を示すだけでなく, 前検査得点が低く, 長期経過後の言語治療対象例は重度の失語症であった。平均効果サイズ d によって改善の大きさを検討すると, 発症後半年以内では中程度の改善を示し, 発症後 1 年経過後 2 年以上に至るまで小程度の改善が持続した。発症後 1 年以降では性別, 年齢, びまん性病変の有無により改善の差が認められた。また, 脳出血では早期に改善がみられ, 脳梗塞では回復がゆるやかに進んだ。
  • 辰巳 寛, 山本 正彦, 仲秋 秀太郎, 波多野 和夫
    2012 年 32 巻 3 号 p. 514-524
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
    失語症者とのコミュニケーションに対する家族の自己効力感評価尺度を開発した。予備調査による内容的妥当性の検証を経て, 16 項目からなるコミュニケーション自己効力感尺度 (Communication Self-Efficacy Scale : CSE) の原案を作成した。本調査では, 失語症者の家族介護者86 名にCSE と一般性セルフ・エフィカシー尺度 (GSES) , Zarit 介護負担感尺度 (ZBI) , コミュニケーション介護負担感尺度 (COM-B) , 抑うつ評価尺度 (GDS-15) を実施した。その結果, CSEの欠損値比率は0.7 %で, 天井・床効果を示した項目はなく, Good-poor 分析にて全項目の識別力を確認した。探索的因子分析では3 因子が抽出され因子的妥当性を確認した。CSE 総得点とGSES, ZBI との相関はそれぞれrs = 0.215, -0.335, COM-B (4 因子) との相関はrs =-0.317 ~-0.440 と有意であった。CSE のCronbach's α係数は0.938 で内的整合性は優れていた。CSE は失語症者とのコミュニケーション場面に特化した家族の自己効力感を評価する尺度として高い妥当性と信頼性を有しており, 臨床的有用性を十分に備えたスケールであると判断した。
  • 吉田 敬
    2012 年 32 巻 3 号 p. 525-532
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
    Broca 失語症者 8 名を対象とし, 自動詞文中の格助詞「が」の付与について検討した。名詞の有生性 (有生・無生) と意味役割 (行為者・被動者) の 2 要因を考慮に入れ, 有生行為者文, 無生行為者文, 有生被動者文, 無生被動者文の 4 種類の文を作成し, 「が」と「を」のどちらが適切か選択させた。失語症が軽度から中等度にかけての患者では意味役割の効果が強く見られ, 重度の患者では有生性の効果のみ見られた。前者では, 名詞の意味役割に関する能力は保たれているものの, 意味役割の情報を格に対応させることに問題があり, 行為者を主格, 被動者を目的格に対応させる方略に, また後者では, 意味役割に関する能力に障害があり, 有生名詞を主格, 無生名詞を目的格に対応させる方略に依存したと考えられる。失語症者の格助詞に関し評価・訓練をする際には, 名詞の意味役割, 有生性, 格の対応関係に留意する必要があると思われた。
  • 澤村 大輔, 生駒 一憲, 小川 圭太, 川戸 崇敬, 後藤 貴浩, 井上 馨, 戸島 雅彦, 境 信哉
    2012 年 32 巻 3 号 p. 533-541
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2013/10/07
    ジャーナル フリー
    頭部外傷後注意障害患者の行動観察評価スケールであるMoss Attention Rating Scale (以下, MARS) の日本語版を作成し, その信頼性と妥当性を検討した。対象は頭部外傷後注意障害患者 32 例である。対象者の担当理学療法士, 作業療法士, 言語聴覚士, 臨床心理士, 看護師, 介護福祉士が MARS を施行した。信頼性については MARS 総合得点, 因子得点における評価者内信頼性, 評価者間信頼性を検討し, 妥当性については神経心理学的検査を用い, 基準関連妥当性, 構成概念妥当性を検討した。結果, MARS 総合得点では高い評価者内, 評価者間信頼性 (ICC>0.80) が得られ, 因子得点においても中等度以上の信頼性係数 ICC>0.40 が得られた。また十分な基準関連妥当性, 構成概念妥当性が確認できた。以上より MARS は多職種で使用でき, 注意障害の検出に優れた評価スケールであることが示唆された。
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