Broca 失語症者 8 名を対象とし, 自動詞文中の格助詞「が」の付与について検討した。名詞の有生性 (有生・無生) と意味役割 (行為者・被動者) の 2 要因を考慮に入れ, 有生行為者文, 無生行為者文, 有生被動者文, 無生被動者文の 4 種類の文を作成し, 「が」と「を」のどちらが適切か選択させた。失語症が軽度から中等度にかけての患者では意味役割の効果が強く見られ, 重度の患者では有生性の効果のみ見られた。前者では, 名詞の意味役割に関する能力は保たれているものの, 意味役割の情報を格に対応させることに問題があり, 行為者を主格, 被動者を目的格に対応させる方略に, また後者では, 意味役割に関する能力に障害があり, 有生名詞を主格, 無生名詞を目的格に対応させる方略に依存したと考えられる。失語症者の格助詞に関し評価・訓練をする際には, 名詞の意味役割, 有生性, 格の対応関係に留意する必要があると思われた。