2019 年 39 巻 3 号 p. 288-293
呼称障害や喚語困難は失語症の中核症状であるが, その発現機序は一様ではない。
Lambon Ralph ら (2002) は呼称障害を「音韻」と「意味」の 2 つの表象の損傷で説明している。彼らは呼称成績を基準変数, 意味連合検査と非語音読の成績を説明変数とした重回帰分析の結果, 説明率 (R2) は 0.55 であったとしている。このような先行研究の結果からは, 失語症におけるセラピーの組み立てには音韻機能と意味機能がどのようなバランスで障害されているのか, どちらが症例の中核症状であるかを吟味し, それぞれに合ったプログラムを立案していくことの必要性が示唆される。実際の臨床では, 「音韻」と「意味」を同時に提示する課題 (例 : 線画・文字・音声刺激) が多くを占めるため, 両者を厳密に区別することは困難であるが, 少なくともセラピーのターゲットを絞り込むことが重要であろう。音韻 / 意味それぞれに焦点をあてたセラピーを実施した自験例 2 例を提示した。