2016 年 2016 巻 26 号 p. 206-216
八代集全体で恋部を主に,僧侶歌人に関わる恋の和歌を調べる.仏道修行に励む僧侶のために恋は日常的に認められるものではない.しかし,諧謔的な笑いが,通常ではない僧侶の恋が現実にあり得ることとする説得力を生む.こうした機微が僧侶の恋と諧謔が結び付く要因である.『後拾遺集』で僧侶歌人が関わる恋の贈答歌は飛躍的に増加する.八代集の恋部で,複数の贈答歌の作者となった僧としては,道命が代表.彼の破戒僧的な自由さが諧謔性や俗人性として表れ,艶聞の説話化もなされた.それらと恋歌の自由さは一連のものである.僧侶の俗人への恋着を表す「舎人の閨」という歌語をともに用いていることから,仏教上の師である尋禅の周辺が道命の和歌形成に影響を与えたと推定する.