人間生活文化研究
Online ISSN : 2187-1930
ISSN-L : 2187-1930
報告
子ども支援における権利論的アプローチの意義と方法
―ニーズ論的アプローチの今日的課題をふまえて―
加藤 悦雄
著者情報
ジャーナル フリー

2017 年 2017 巻 27 号 p. 549-558

詳細
抄録

 子ども支援や子育て支援は誰に対して,どのような根拠に基づき行われていくのか.こうした問いは社会福祉原論における対象論研究に位置づけられ,これまでに問題論的アプローチ,ニーズ論的アプローチ,権利論的アプローチなどの方法が生み出されてきた.本研究の目的は,以上のような先行研究を踏まえ,ひとつは権利論的アプローチを基盤として子ども支援を展開していくことの優位性を示すということ,いまひとつは権利論的アプローチに基づく支援行動を起動させていくメカニズムを提起することである.そのための手続きとして,まず,1994年のエンゼルプラン策定以降,ニーズ論的アプローチの活用によって,子育て支援サービスの全国的な普及が促進されてきたが,他方でその一面的な活用の結果,利用者の問題にサービスを当てはめる支援,すなわちサービス本位の支援が危惧されるようになったことを指摘する.それでは,子どもの最善の利益に基づく本人主体の支援を展開していくには,どのような視点が必要となるのか.ひとつの補助線として,現在も岡村理論として影響力のある岡村重夫による福祉理論を参照していく.岡村は生活者を主体とした対象認識の方法を構築し,さらにその晩年において,こうした考え方の必然性を人権概念によって基礎づけようとした. このような岡村の提起した枠組みを用いることで,子どもの最善の利益の考え方を主軸とする,子どもの権理論的アプローチの構成要素を示していく.しかしながら,すでに1994年に子どもの権利条約が批准され,人権概念が現実のものとなったが,岡村の期待したような生活者主体の支援が展開されているとは言い難い.そこで,子どもの権利論的アプローチを起動させていく十分条件として,フロイトによる心の構造の理論を参照し,子どもの支援活動の担い手の中に価値が位置づいていくメカニズムを提起していく.

著者関連情報
© 2017 大妻女子大学人間生活文化研究所
前の記事 次の記事
feedback
Top