2017 年 2017 巻 27 号 p. 682-696
本稿では,ドイツ居住のバイリンガル小学生を対象に実施した日本語作文調査の概要と調査結果を報告した.調査では,日本語補習授業校児童に,小 4 と小 6 の 2 時点で「物語文」と「説明文」の 2つの課題で作文を書いてもらった.作文を縦断的に分析した結果,次の 2 点が明らかになった.第一に,対象児の書く力の発達過程は,文字・表記・単語/構文/談話の 3 つのレベルで,日本語モノリンガル児に比べると相対的に伸び方が緩やかで伸び幅も小さいものの,2 年間で着実に伸びていた.他方で,日本語でも複雑な文章を構成する力がついてくる反面,言語の形式的な側面や要素的な側面に揺れが見られた.第二に,対象児の談話構成力は,「物語文」作文では 2 年間で順調な伸びが見られたのに対して,「説明文」作文では 2 年間の伸びが小さいなど,作文のジャンルによって伸び方が異なっていた.今後,バイリンガル児の日本語作文力の発達過程の解明を進めるためには,日本語作文力の総合的な分析と作文ジャンル間の比較分析を通して,日本語作文力の発達過程に見られるバイリンガル児とモノリンガル児の重なりと違いをより詳細に分析する必要があると考えられた.