2019 年 2019 巻 29 号 p. 293-298
裏返し構造とは,従来,異郷訪問譚の形式の物語にみいだされてきた構造であるのだが,異郷訪問譚ではない形式の物語にもこの構造がみとめられるか否かについては検証されてこなかった.そこで筆者は,はたして異郷訪問譚ではない物語においても裏返し構造がみとめられるかの調査をおこなったところ,いくつかのアイヌ民族を話者(あるいは筆者)とするテキスト,および,いくつかの聖書テキストにおいては裏返し構造がみとめられることが確認された.本稿の目的は,聖書テキストに含まれる「ピレモンへの手紙」においても裏返し構造がみいだされることを示すところにある.