人間生活文化研究
Online ISSN : 2187-1930
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臨時災害放送局に求められるコンテンツと地域メディアとしての役割
―「りんごラジオ」放送記録分析から―
松本 早野香
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2019 年 2019 巻 29 号 p. 682-694

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抄録

 本研究は,東日本大震災後の大量開局・長期運営により地域メディアとして注目されている臨時災害放送局について,宮城県亘理郡山元町「りんごラジオ」の放送記録の分析に基づいて放送コンテンツの概略を提供し,また,放送主体に対する調査をもとに,その地域メディアとしての役割を考察するものである.臨時災害放送局は災害時に地域情報を提供するために運営されるFMラジオであるが,コミュニティ放送などの母体なしに開局される場合もあり,その性質上,開局運営のリソースも限られている.すべての臨時災害放送局が災害下・復興期に特有の放送内容を提供できたとはいいがたく,また,今後の災害時にそれが可能になるとは思われない.放送主体や地域・関係者がいつ何を放送すべきか判断するための参照先が必須である.また,災害時はとくにメディア間の連携が重要となり,そのための知見も整理されるべきである.そこで本研究では,第一に,2011年3月21日から約6年間の放送をおこない,地域メディアとして高く評価された臨時災害放送局「りんごラジオ」の放送記録ノートを内容分析することによって,時系列による放送コンテンツのカテゴリを提供した.具体的には,災害が起きた直後,避難所生活が中心となる期間,復興への転換期,そして長期的な復興期間に,それぞれどのような放送がおこなわれたかを示した.第二に,「りんごラジオ」放送局スタッフや当地住民に実施したインタビュー・参与観察の結果から,臨時災害放送局に求められる情報を時系列で提案した。さらに,地域の中で果たす役割について考察した.具体的には,ラジオというメディアの被災・復興期における強み,災害・復興期のローカルメディアとしての聴取者との距離感やかかわりのための仕掛け,電子メディアとの相互補完,コミュニティ内で情緒を共有する機能について論じた.

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© 2019 大妻女子大学人間生活文化研究所
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