日本語は古くから情報構造の図式を意識する言語である.事態を言表する際に,主題マーカーの「は」によって主題と題述を截然と分ける.古典日本語においては,修辞的効果のために構成素を焦点化し,際立たせる手段として係り結び構文がある.係り結びによる焦点化には2種類の形式がある.一つは,「ぞ」・「なむ」・「や」・「か」が関与し,主題と題述を倒置し,本来の終助詞を係助詞とし,文末の主題節を連体形で閉じる形である.もう一つは「こそ」が関与し,通常の語順の特定の構成素を自由に焦点化し,文末は已然形をとり,逆接および順接の等位節を従える形である.従来,これらの係助詞は「は」と並行して何らかの主題を表すとされてきたが,議論の余地がある.そこで,本論では,係り結びの係助詞はむしろ題述(の焦点)を表すものとみなす.また,これと連動して,主題は基底の主題とさらなる主題化によってもたらされた主題との多重主題を生み出すことを述べる.本論では,第二に,係り結びの係助詞の全体像に目を配りつつ,その個別的性質について発話内容,発話構成プロセス,発話態度の観点から明らかにする.また,それぞれの係助詞の関連性モダリティの特性を示す.第三に,係り結びの洗練された修辞があっけなく衰退した要因が,構文の過剰性,コストの高さ,情報構造表示の一般化の達成に帰されることを述べる.以上の係り結びの議論を通して,係助詞という文法カテゴリーは,主題マーカーと焦点(題述)マーカーの下位類からなる情報構造マーカーであることが示されたことになる.