2001 年 10 巻 p. 101-113
本論文は、(1)森田氏のテクスト「近代教育と読み書きの思想」の論旨をスケッチし、(2)氏が採用する思想研究の視座と枠組みに焦点づけながら、その接近姿勢に認められるモチーフを「ずれ」として取り上げて考察し、(3)筆者の受けた綴り方教育の体験を紹介しながら、教育実践者に即したアプローチの必要性と可能性、新教育思想研究の新たな意味について述べたものである。テクストは近代教育、読み書き、新教育という三つのモチーフに焦点を当て、近代化、主体化、識字化、作文、活動、自由テクストに内在するずれを重層的・相対的に描出している点で高く評価できる。しかし、このアプローチは、スタンスの超越性、分析者の特権性、多元的な参照枠の強要、巨視的な事象選択、「ずれ」描出上の恣意性、実践家の思想形成過程の捨象が認められ、「新教育」事象についての解釈には性急さが窺われる。確かに従来の新教育研究には称楊的な態度が強くあると思われるが、しかし、そのような姿勢への批判さえも留保したかたちで、教育的営為をリアリティある文脈に位置づけつつ、まずは、第一次史料に基づいた解釈と意味の析出の作業を積み重ねることが要請される。