2001 年 10 巻 p. 143-155
本論文では、教育学における臨床知の歴史を、生活や仕事の中での学び-教えの中に埋め込まれていた臨床知を排除しながら、それを改めて発見し、教育学の中に再び組み込もうとする歴史として捉える。しかし、その「臨床知」発見の意味は両義的であり、その過程には相矛盾する二つの局面が含まれている。一つは、近代の教育やそれを支えてきた教育学の枠組みを原理的に問い直そうとする局面であり、もう一つは、臨床知を教育や教育学の内部に回収することによって、教育と教育学の旧来の枠組みを正当化し強化しようとする局面である。ここでは、昨今の教育学が臨床知の意義を再発見することの背後にある歴史的・社会的なコンテクスト(近代の知への批判およびポストモダン社会への移行という条件)を解明することを通じて、相反するこの二つの局面を浮き彫りにするとともに、その二種類のコンテクスト(条件)とその二つの局面の関係についても論じた。