近代教育フォーラム
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教育の臨床知 : クリティカルな知のモード(司会,シンポジウム 教育学における臨床知の歴史)
田中 智志
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2001 年 10 巻 p. 157-171

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抄録

1980年代の後半にカウセリング、ケアリングといった臨床知指向が強まってきた。しかし臨床知指向は、この時代にはじめて生じた現象ではない。教育学は、臨床知を発見し方法知に回収し、ふたたび臨床知を発見し方法知に回収するという反復運動をくりかえしてきた。臨床知は本来、危険に臨み、生のクリティカルな局面を受けとめるという、積極的ニヒリズムを伴っている。しかし、通俗的な教育(学)は、この積極的なニヒリズムを失わせる静態的フレーミングからなかなか逃れられなかった。臨床知に似ている実践知、たとえばフーコー=ドゥルーズのダイアグラムも、静態的フレーミングによって通俗化するなら、積極的ニヒリズムを失っていく。ここに臨床知の発見と回収という反復運動の根本原因を見出すことができるだろう。とすれば、たえず臨床知を発見しそれに参画しつづけることは、通俗的な教育(学)を超克する知を探索することである。「教育問題」を語る場を「レトリック状況」と見なしそこに言説変革の可能性を見出すことは、そうした臨床知への第一歩である。

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