人文地理学会大会 研究発表要旨
2003年 人文地理学会大会 研究発表要旨
セッションID: 11
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出羽国絵図考
絵図学構築のために
*小野寺 淳
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抄録

江戸幕府撰国絵図は,慶長・寛永・正保・元禄・天保の5度,諸大名から幕府に提出された国単位の絵図である。これをもとに幕府は日本図を作成するなど,江戸時代の国土基本図としての性格を有していたといわれる。それゆえに,江戸幕府撰国絵図の研究は近世絵図研究の根幹をなす。なかでも出羽国絵図は一国仕立ての絵図としては5×11mと最大であり,現存絵図としても最大級である。また秋田・鶴岡・新庄・山形・米沢の5藩が作成した領内絵図を一国仕立てにしており,出羽国絵図の研究は国絵図研究の縮図ともいえる。出羽国絵図は約20年前では10数点が確認されていた。その後,所在調査を実施した結果,160点の出羽国絵図の現存を確認,また個々の絵図の表現内容を検討してきた。この成果をもとに,本報告ではまず出羽国諸藩における国絵図の作成過程等を明らかにした上で,絵図の保存・公開を含め,地理学・歴史学などの既存のディシプリンを超えた絵図学の構築を提唱したい。ここでは,絵図学構築のための課題として,以下の6点を指摘する。1.すでに指摘されているように,記号論的視点に加え,政治・社会・文化的コンテクストのなかで絵図を考察する研究視点が一般化してきた。これを踏まえて,さらに研究視点を広げていくことが必要となる。2.個々の絵図の記載・表現内容の資料化を進めるとともに,絵図史料論の確立が重要である。3.絵図の系譜を研究すると同時に,いかに絵図が利用されたかを解明することも残された課題である。4.絵図研究には悉皆調査が必要であり,データベースの作成が望まれる。5.絵図の保存と公開のためにデジタル化を促進し,高精細画像の提供が普及する可能性が高い。6.このデジタル化を前提に,絵図研究のための専用ソフトの開発が必要となるであろう。

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