人文地理学会大会 研究発表要旨
2005年 人文地理学会大会 研究発表要旨
セッションID: 213
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産業近代化遺産の文化財・世界遺産指定にともなう問題点
*田中 絵里子佐野 充
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抄録
 今日の世界は,ヨーロッパ的世界といっても過言ではないような状況になっている。産業革命以降,ヨーロッパを根源とする世界は,成長,成熟,崩壊の歴史を歩み,21世紀に入るや,地球規模の保全・保護を人類の目標とした。今日までの人類開発によって,破壊されてしまった自然の残された部分と開発の足跡を後世に伝えるために,世界遺産をはじめとするさまざまな手段がとられている。
 日本の近代化を担ってきた産業・交通・土木に係る造形物に対しては,1993年に文化庁が「近代化遺産」の種別を設け,文化財の指定を行っている。1996年以降は,変化の著しい現代社会に対応するため「登録有形文化財」の制度も導入された。他方では,産業近代化の足跡である産業遺産や,稼動中の工場を観光に活用する産業観光が注目され始め,隠れた産業遺産を見直す動きが出てきている。これは従来の名所旧跡と,大型観光投資の造形物である観光施設を巡る観光からの脱却の一方策である。
 ヨーロッパには産業遺産の世界遺産指定は多いが,日本にはまだ一つもない。現在,民間による推薦産業遺産認定や,文化庁の登録有形文化財制度による近代に築かれた産業遺産になりうる可能性のある施設の保存,活用が推進されており,近年中に日本においても産業遺産指定が成される可能性が高い。
 産業遺産の観光資源としての出番は増加しそうだが,遺跡施設の改修や利用について厳格な制限のある重要文化財制度とは異なり,外観を維持すれば自由に改修や利用のできる登録有形文化財制度に基づく産業遺産化は,結果として新たな指定における問題を発生することになるのではないかと思われる。愛媛県新居浜市の旧別子銅山(1973年閉山)や,群馬県富岡市の旧富岡製糸場(1872年建設,1987年操業停止)などでは,産業観光都市を目指す取り組みが始まっており,10年後,数十年後の観光による地域再生を語っている状況がある。
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