抄録
ヒューマンエコロジーは、社会学、文化人類学、心理学、公衆衛生学、家政学、造園学、地理学など多岐にわたる分野からのアプローチによる学際的学問領域である。ヒューマンエコロジーが主題とする人間と環境との相関性は、今日の地球環境問題、持続可能性の問題と供し、その研究の深化を要請されており、それは、これまで人文地理学において培われてきた人間と環境との相関性についての研究であると言え、人文地理学におけるヒューマンエコロジー研究として、その課題、研究領域についてのアプローチを整理する必要性がある。本研究では、ヒューマンエコロジーの他分野との比較を通して、ヒューマンエコロジー研究における人文地理学的視点、意義、その方向性についての試論を呈示することを目的とするが、ここでは、都市社会学、文化人類学、造園学、公衆衛生学、地理学のこれまでの研究のレビューによるヒューマンエコロジー研究についての若干の整理を行っている。まず、方法論的アプローチの特徴としては、各々の研究視座によりその対象となる領域、方法が異なっている点、またその領域毎に確立された分析方法を用いて、諸現象についての考察を行っている点が挙げられる。また、ヒューマンエコロジー研究には二つの潮流がみうけられ、一つは、人間行動の生態学的な分析についての考察であり、他方は、人間の生存のための人間をとりまく環境への分析、その適応、進化についての考察である。共通点として、人間を主体とした環境への相互関係、相互作用についてのアプローチが挙げられる。これらを踏まえて、人文地理学におけるヒューマンエコロジーへの視座として、人文地理学研究は、地球環境を構成する諸要素を個別的に取り扱う他の専門的学問とは異なり、総合的な視座による空間の構造、機能、変容、形態をベースとして地球環境の分析を行う。地理学におけるヒューマンエコロジー研究は、人間の生存、適応分析を中心として、景観生態学でこれまで排除されてきた人間の自然界への撹乱の影響を鑑みつつ、空間の構造、機能、変容をベースとした総合的な研究として進められるべきではないかと考える。