抄録
狩猟を通した野生動物管理の在り方を考える上で、猟場がどのように形成され、地域で維持されているかという点にも注目する必要がある。本発表では、沖縄西表島でのイノシシ罠猟を事例として、狩猟活動の同行調査と狩猟者への聞きとりから罠場の空間的な構造と島内の分布について報告し、その形成過程について考察をおこないたい。西表島では罠猟が主流で、他の地域で見られるような、犬を用いた銃猟との猟場をめぐる争いは皆無である。罠を排他的に掛けることのできる罠場はヤマと呼ばれ、近傍の狩猟者間で互いに認知されている。ヤマは南海岸を除く森林の辺縁地帯に分布しており、アクセス性に大きく規定されている。このようなアクセスしやすく、ヤマが密集している所は他人が勝手に入りにくく占有権が明確化されやすい。各罠場の形態は、狩猟者の自然認識を通し、年ごとに細かく変化しているが、特に台風などの大きな自然攪乱は罠場を縮小させ、狩猟活動に大きな影響を及ぼす。一方、ヤマの境界はほとんど変化せず、このような境界付近にはお互い罠を掛けるのを極力避けるような曖昧な空間が存在する。新規狩猟者の場合、他の狩猟者からヤマの一部が譲られるか、誰も掛けていないところを選び掛け始める。そのため、毎年、罠を掛け続けている限り、その罠場の占有権は互いに認知され、安定的に保たれるのであり、現時点では、ヤマをめぐるトラブルは少ないといえる。ただし、このようなテリトリー性と資源量(イノシシ個体数)との関係は、空間に着目した動物生態的研究と併せ今後の検討課題であるいえる。