人文地理学会大会 研究発表要旨
2009年 人文地理学会大会
セッションID: 205
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第2会場
資源循環型陶磁器生産システムの構築とその社会経済的意義
*林 上
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抄録

 「環境」を武器に「経済」で成功するサクセス・ストーリーは,近年,社会の中でかなり浸透するようになった。Environmental Modernization すなわち環境的現代化とよばれる社会的潮流が,こうした物語を後押ししている。しかし,これまで誰も考えたことがなく,またやったこともない廃棄済み陶磁器を再資源化して,もう一度陶磁器を生産するという試みは,そう簡単に実現できるとは思われない。生産者から消費者への一方通行が常識であったモノの流れを,リサイクルのために逆転させる必要がある。生産から流通を経由して消費に至る既存の資本主義システムに,廃棄物の回収と再生産という経路が加わることにより,人と陶磁器の関係は大きく変わる。陶磁器の色や形を単にデザインするのではなく,人間と陶磁器との関わり方それ自体をデザインし直す,すなわちリデザインへの挑戦開始である。  本研究で対象とするのは,美濃焼産地として知られる岐阜県東濃地方で始まった資源循環型陶磁器生産システムである。1997年に立ち上げられたリサイクル陶磁器の生産プロジェクトが事業化に向けて進んでいくためには,技術開発,廃棄陶磁器の回収,リサイクル食器の生産・販売など,いくつかの課題を解決しなければならなかった。本研究では,これらの課題を克服するために,生産地の製造・流通業者や消費地の消費者・自治体・ボランティアグループなどがどのように行動してきたかを明らかにする。資源循環型陶磁器生産システムの構築は,社会全体をつつむ「環境ブーム」に迎合した一過性の現象に見えるかもしれない。しかしそれは皮相的な見方であり,実際には国際的な価格競争力を弱めた国内産業の再生・強化策,生産者と消費者の相互関係や陶磁器と人間の社会的なかかわり方の見直しにもつながる重要な意義をもっている点に注目する必要がある。

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