抄録
ミクログリアは突起が特有の屈曲を示す小膠細胞としてHortegaによって94年前に発見された.この発見は師匠であるCajalの「第三要素」は突起を持たないという主張を否定するものであったことを考えると,Hortegaのミクログリア突起に対する強い思い入れが感じられる.2005年,NimmerjahnとGanの2つの研究チームは2光子励起顕微鏡を用い生きているマウスの脳内ミクログリアの観察に成功した.その結果,休止状態にあると考えられてきたラミファイドミクログリアが突起を動かし伸縮を繰り返して活発に活動しているという驚くべき事実を発見した.この研究はミクログリア研究のブレークスルーとなり,「ミクログリア突起の動きと働き」に注目が集まることになった.その後,ミクログリアは突起を伸展することでシナプス部に接触し,シナプス監視を行っていることが示唆された.また,ミクログリアの突起が不要なスパインを取り込むことで脳発達期におけるpruning(刈込み)によるニューロン回路形成,シナプス再編による損傷からの回復ならびに外環境への適応反応などに関与することが次々と明らかになった.さらに最近,時計遺伝子の支配下にあるミクログリア特異的分子P2Y12受容体ならびにカテプシンSの発現がミクログリア突起構造に日内変化をもたらし,ニューロン活動の概日リズム形成に関与することが明らかとなってきた.「ミクログリア突起の動きと働き」の障害が脳機能不全を引き起こすことも示唆されており,新たな薬剤開発のターゲットとなりうる可能性を秘めている.