人文地理学会大会 研究発表要旨
2011年 人文地理学会大会
セッションID: 307
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第3会場
非集計需要分布を用いた立地配分モデルの有効性に関する研究
*青木 和人
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抄録

市町村では事業の対象となる乳幼児期の0~5歳児が,どの地域に多いのかという地域的特性を踏まえた上で,施設立地を検討することが喫緊の行政課題となっている。しかし,このような公共施設配置に立地‐配分モデルを適用する際,需要地点や距離の定義に利用できるデータは,市町村によって様々である。このため,非集計の需要地点や道路ネットワークデータが使用できない場合の適用誤差を知った上で,立地‐配分モデルを適用する必要があるが,そのような事例は未だない。そこで本研究では,日本の市町村が直面している課題である中学区への子育て支援拠点施設配置を対象として,需要地点と距離の定義に関して,様々な条件のデータを利用した場合の立地‐配分モデルの目的関数ごとの適用誤差を明らかにした。 本研究の対象地域は,非集計の需要地点データを使用することができる京都府宇治市の広野中学校区域である。宇治市は京都府南東部に位置し,宇治川を挟んだ東西に市域面積67.55k_m2_を有している。距離の定義を,(a) 道路ネットワーク距離と(b) 直線距離の2つの条件とし、目的関数を,(1)施設を利用する住民の総移動距離を最小化するp-メディアン問題,(2) 施設まで最も遠く離れた住民の移動距離を最小化するp-センター問題,(3) 施設から一定の距離圏に含まれる住民を多く被覆する最大カバー問題 の3つの指標とし,適用誤差を比較した。 p-メディアン問題での比較:p-メディアン距離が最も小さくなる最適立地点は,最適条件(a-1)では候補地2である。他の条件でも,(a-3)以外,候補地2が最適立地点となっており,最適立地点の選定に大きな差は生じていない。(a-2)ネットワーク距離定義,町丁・字等単位の集計データによる適用結果は,最適条件(a-1)とほとんど変わらない評価結果を示しており,その使用は十分可能である。一方,(a-3)ネットワーク距離,500mメッシュ単位の集計データは,適用誤差が大きくなりすぎるため,その使用は適当ではない。さらに直線距離定義である(b-1),(b-2),(b-3)を使用すると,25%程度評価値が過大評価されるため,望ましくない。このように立地‐配分モデルを適用する際に,集計単位と距離をどう定義するのかは不可分の関係にあるといえる。特に,距離の適切な定義のために,市町村は国道,県道以外に市町村道を網羅した詳細な道路ネットワークデータを作成しておくことが有効である。 p-センター問題での比較:公平性を重視した施設配置を実現するp-センター問題では,最適立地点の選定に,ばらつきが生じている。p-センター問題では,精度の高いデータを使用することによって,初めて適切な結果が得られるといえる。このため,行政の施設配置において効率性でなく,公平さを目的とするp-センター問題を適用する際には,精度の高い最適条件(a-1)が求められる。しかし,すべての条件において,最適立地点の評価値は,歩行限界距離である1,000mを大きく上回っている。このため,中学校区を単位とした子育て支援拠点施設配置問題への歩行限界距離1,000mを想定したp-センター問題の適用は,現実には難しいであろう。 最大カバー問題での比較:最大カバー問題における各条件での最大誤差は,404~730人あり,中学校区への最大カバー問題による立地‐配分モデル適用により,カバー人口を400~700人,30~50%程度改善できることがわかる。最大カバー問題では,すべての条件で最適立地点は,候補地2となり,差は生じなかった。最大カバー問題は条件の違いによる最適立地点の選定誤差が出にくいといえる。最大カバー問題でも,評価値の誤差から,(a-2)ネットワーク距離定義,町丁・字等単位の集計データの利用が最も望ましい。しかし,詳細な道路ネットワークデータを用意できない市町村も多い。そのため,すべての条件で同じ最適立地点を算出することのできた最大カバー問題は,日本の市町村が中学校区単位で様々な条件のデータで立地‐配分モデルを適用する際に,最も利用しやすいモデルであるといえる。 市町村において効率的な施設配置計画を立地‐配分モデルで策定していくためには,以上のような適用誤差を把握することが重要である。その結果,立地‐配分モデルによるロジックの透明性は,意思決定過程の明確な説明を促し,住民への説明責任を果たすことに寄与するであろう。

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© 2011 人文地理学会
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