比較生理生化学
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総説
キイロショウジョウバエの概日温度適応
梅崎 勇次郎吉井 大志
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2017 年 34 巻 3 号 p. 80-91

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抄録

変温動物である昆虫にとって,周囲の温度変化は,個体の生命活動に大きな影響を与える重要な環境因子である。例えば,低温下では活動が低下し,それが長期に続けば死に至る。高温は,さらに危険であり,短時間で死に至ってしまうこともある。昆虫が生息する多くの環境では,周囲の温度は一日の中で変化する。そこで昆虫は,一日の時間を測る時計“概日時計”を使って,24時間周期の温度変化をあらかじめ予測することで,環境にうまく適応している。動物の概日時計の研究は,1990年代以降,特にキイロショウジョウバエとマウスを用いた遺伝学的・分子生物学的な研究により急激に発展し,時間を測る分子機構の中心的部分がすでに解明されている。特にショウジョウバエでは,概日時計を構成する神経細胞(時計細胞)の同定,またその時計細胞を遺伝学的に操作する技術も発達しており,様々な研究手法を用いることが可能になっている。そのような背景を基に,著者らを含むいくつかの研究グループは,キイロショウジョウバエを用いて概日時計と温度適応について研究を進めてきた。本総説では,概日時計が周期的な温度変化に同調するということ,概日時計の制御によって温度選択性に概日リズムが生まれること,の2点についてこれまでの研究を概説する。

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© 2017 日本比較生理生化学会
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