人と自然
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イチョウウキゴケの生活史1 水田環境における生殖器官 ならびに胞子体の成長の観察
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2016 年 27 巻 p. 43-52

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抄録

滋賀県大津市のイチョウウキゴケ(苔類,ウキゴケ科)の有性生殖を行う集団において,2014 年5 月8 日 から7 月28 日の間,週2 回合計23 回にわたり,各回とも葉状体5個体を対象に造精器・造卵器が形成される位置と数,ならびに胞子体への成長過程を記録した.5月初旬の水田の水入れのあと10 日前後で造精器の形成が確認され,その後全期間中を通じて造精器が見出された.一方造卵器は5 月の下旬から確認でき,6 月初頭に受精が始まった.受精した胚はすばやく成長し,6 月中旬から7 月中旬にかけて黒熟した胞子を生じた.生殖器官ならびに胞子体の発達にともない,葉状体中央部の溝の形状が広がることを確認した.6 月下旬に中干しによって水田の水が抜かれると,水不足などによって胞子体の成長が著しく阻害され発育不全となる事例が急増した.イチョウウキゴケの胞子体は秋にも生じるが,偶然の好条件が重なることによる例外的な事象であると考えられる.  

© 2016 兵庫県立人と自然の博物館
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