保全生態学研究
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ニホンジカ(Cervus nippon)の採食行動からみた緑化工の保全生態学的影響 : 神奈川県丹沢山地塔ノ岳での一事例
三谷 奈保山根 正伸羽山 伸一古林 賢恒
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2005 年 10 巻 1 号 p. 53-62

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抄録

1955年頃から, 森林の崩壊地の復旧や道路脇の緑化として, 牧草を用いた緑化工は全国的に拡がった.牧草を用いた草地が, ニホンジカ(Cervus nippon)の食性に与える影響を調べるため, 本研究では, 塔ノ岳の緑化工による草地の周辺に生息する人馴れしたメスジカ「個体D」を詳細に観察し, 調査地周辺の主要な3種類の下層植生の現存量調査を行った.冬期, 個体Dは採食時間の77%から84%でササを採食していた.夏期には, 個体Dの主要な餌植物は緑化工の植物で, 採食時間の45%から75%を費やしていた.ミヤマクマザサ(Sasa hayatae Makino)とヒメノガリヤス(Calamagrostis hakonensis Franch. et Sav.)の2種の野生草本の現存量は10月に減少し始めた.一方, シカの継続的な高利用にもかかわらず, 緑化草地の現存量は11月まで増加し続けた.個体Dの行動圏は著しく小さく(夏の1.6haから秋の4.0ha), コアエリアの位置は食性の影響を受けていた.個体Dの移動はササや緑化草地といった単一の植生に依存していた季節に減少していた.牧草を用いた緑化工は個体Dに高質で継続的に利用可能な餌場を提供し, 行動圏の大きさや移動様式にも影響を与えていたことが示唆された.ニホンジカの分布域において, 緑化工はシカの栄養状態を向上させる可能性がある.そのため, 生息地本来の環境収容力以上に密度を増加させるかもしれない.シカの生息地管理には, 緑化工の規模や配置を考慮に入れる必要がある.

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© 2005 一般社団法人 日本生態学会

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