2006 年 11 巻 1 号 p. 70-75
フェンチオンは有機リン系殺虫剤の一種であり、鳥類に村して非常に高い毒性を持つ。海外では殺鳥剤として使われて来た歴史もあり、生態系に対する影響の重大さを理由の一つに、欧米諸国では現在、使用が大幅に制限あるいは中止されている。一方我が国では、古くから広範な環境中で使用され続けているにも関わらず、鳥類への毒性もこれまで保全関係者にほとんど知られてこなかった。日本生態学会では、フェンチオンがウエストナイルウイルス熱対策でさらに自然環境中で使用されることを憂慮し、2005年3月第52回大会総会において、「ウエストナイル熱媒介蚊対策に際しての殺虫剤フェンチオンの使用回避についての要望書」を決議、同年4月、環境省、厚生労働省、および農林水産省の各大臣宛に提出した。その結果、同年7月、要望内容をほぼ全面的に反映した形で、厚生労働省よりフェンチオンの使用を差し控えるよう各自治体へ通知がなされた。本報告では、この要望書提出の経緯と内容について述べる。また、とくに鳥類に高い毒性を持つフェンチオンのような薬剤が国内では漫然と使用され続けている理由を述べ、生態系に対して適切な化学物質の使用に関して今後何をなすべきかについて考察する。