保全生態学研究
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2004年秋のツキノワグマ大量出没に関する体毛の炭素・窒素安定同位体比からみた栄養診断の試み
安河内 彦輝三原 正三黒崎 敏文米田 政明韓 尚勲小池 裕子
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2008 年 13 巻 2 号 p. 257-264

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抄録

2004年秋〜冬にかけて、日本のツキノワグマUrsus thibetanusは人里近くに多く出没し、その原因として特に北陸や西日本での堅果類の不作が指摘された。本研究はこのツキノワグマ大量出没調査と関連しておこなわれたもので、95個体の体毛を用いてδ^<13>C・δ^<15>N値を測定した。このうちの18個体および韓国Jirisan国立公園保護個体2個体の計20個体に関しては体毛の毛根基部から先端まで3mmごとの季節的経時変化を調べた。Jilisan国立公園に放獣されたツキノワグマでは、δ^<13>C値がほぼ一定であるが、δ^<15>N値は毛先から中央部にかけて増加し毛根まで徐々に減少した。このようなパターンは初夏〜夏にかけて昆虫類を多く摂取しδ^<15>N値が若干高くなるが、秋になって堅果類を集中して摂取し、ふたたびδ^<15>N値が下がる傾向を示したものと考えられる。一方2004年の日本産ツキノワグマでは、δ^<15>N値が明瞭に下がるものは少なく、東中国・西中国ユニットの個体ではむしろ毛根部で急に高い値を示す個体もみられた。この要因として、動物食料の増加、あるいは秋の堅果類等の食物が充分ではなく自家消費を始めたなどがあげられるが、2004年の個体の場合には後者の可能性が高いと考えられる。95個体の体毛毛根を用いたδ^<13>C値・δ^<15>N値のなかでは、-20&permil;以上のδ^<13>C値をもつC_4植物系の食物(トウモロコシや家畜残飯)を摂取していたと思われる個体が北・中央アルプス・近畿北部・西中国ユニットから検出された。δ^<15>N値の高い個体が東中国・西中国ユニットに見られた。δ^<15>N値には地域差がみられるため体毛の連続測定が必要であり、δ^<15>N値の季節的経時変化のデータを蓄積することによって、今後有効な栄養診断の指標になると期待される。

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© 2008 一般社団法人 日本生態学会

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