保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
原著
コモンズの重層的価値が環境配慮行動に及ぼす影響: 農家と非農家によるため池の農業価値と環境価値に対する評価
今井 葉子 野波 寛高村 典子
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2016 年 21 巻 1 号 p. 1-14

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抄録
里地里山のような二次的自然は、生物多様性の保全に重要な役割を果たすとともに、市民に身近な自然環境を提供している。近年の農家の後継者不足・高齢化などによる人手不足で適切な管理がされにくくなった里地里山では、そうした機能が失われつつある。本研究では、地域の環境資源(コモンズ)として、里山の構成要素であるため池を取り上げ、ため池を持続的に維持・管理するために必要だと考えられる、農家と非農家の環境配慮行動に着目した。ため池を所有・管理する農家と、散策等でため池の環境を利用する非農家のそれぞれの立場から、ため池の保全行動に関わる心理的要因として、個々人が感じるため池の価値を測定した。ため池が内包する価値としては、利水機能に関連する「農業価値」と環境保全や親水機能に関連する「環境価値」とを分離し、それぞれに対する価値の測定を試みた。具体的には、農家と非農家のため池の価値評価の差異がため池の保全行動にどのような影響を及ぼすか、社会心理学の分野で用いられる環境配慮行動の意思決定モデルにもとづき検討した。仮説の意思決定モデルを検証するため、明石市にあるため池を選定し、ため池を管理する農家と周辺に居住する非農家を対象に、配布式のアンケートを実施した。有効回答を分析した結果、これまでに一度でもため池保全の活動に参加したことがある非農家は、参加したことがない非農家よりも、ため池に対する価値の評価が有意に高かった。さらに、共分散構造分析により農家と非農家のため池保全の行動意図に至る意思決定モデルを比較した。その結果、農家と非農家はどちらも同一のため池に対し「農業価値」・「環境価値」という複数の価値を見いだしており、コモンズとしてのため池の価値の重層性が示された。しかし、保全行動意図には、農家では「農業価値」が、非農家は「環境価値」がそれぞれ影響することが示された。ここから、ため池の保全に関わる活動を活性化させるためには、ため池に対する価値評価の差異を各アクターが相互に把握した上で共通の価値評価を成立させるための意見交換の場等を設けることが重要であると言える。
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© 2016 一般社団法人 日本生態学会

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