抄録
外来生物の管理において、対象種の根絶が現実的に困難である状況はしばしば発生する。対象種を現在の分布域に封じ込め、その拡散を防ぐことは、現実的に設定できる管理目標の一つである。本研究は、国が防除を実施している外来陸生貝Helix aspersaを事例に、行政機関による防除データを利用して、対象種の封じ込め実現に向けた管理計画地図を作成する手順の確立を試みた。封じ込めを実現するためには、対象種の侵入・拡大経路を明らかにし、そこに障壁を設置することが基本的な対応となる。この際、在/不在データの精度をできる限り高めることが重要となる。なぜなら、実際に生息する場所を見過ごして不在と評価してしまうと、対策場所の漏れが生じ、新たな場所への侵入・拡大を許してしまうからである。そこで行政機関によって実施されたHelix aspersaの4年間の防除データを利用し、4年間で1度でも対象種が確認された場所を「在」、4年間で1度も対象種が確認されなかった場所を「不在」とみなし、これを説明する統計モデルを構築することで、対象種の侵入・拡大経路となる条件を可能な限り厳密に検討した。さらに得られた統計モデルを調査地の周辺に外挿することで、侵入・拡大の経路となる可能性が高い場所を地図として表現した。その結果、侵入・拡大する可能性が高い地域は現在の分布域の北方向に広がっていることが示された。この方位に障壁を設置する、防除労力を集中する等によって、対象種を現在の分布域に封じ込められる可能性が高いと判断できた。外来生物のモニタリングは各地で実施されており、本研究で示した方法は、様々な地域の様々な種を対象に適用できると考えられる。