保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
調査報告
アズマネザサの刈り取りが放棄二次林の林床植生に与える影響
中島 宏昭鈴木 貢次郎亀山 慶晃
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ジャーナル オープンアクセス

2016 年 21 巻 1 号 p. 51-60

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抄録

関東地方の放棄二次林では、アズマネザサの繁茂によって林床植物の種多様性が著しく低下している。しかし、アズマネザサの刈り取り管理を再開し、林床の環境や種組成がどう変化するのかを検証した例は極めて少ない。本研究の調査地として選定した早野梅ケ谷特別緑地保全地区(神奈川県川崎市、海抜48.2?80.7 m、面積約11 ha)は、30?40年にわたって管理が放棄され、アズマネザサが繁茂している。本報では、毎年刈り取りを実施する「刈り取り区」(6,700 m2)と、一切の人為的管理を行わない「対照区」(2,000 m2)を、2010年に設置した。さらに、調査区内の地形(谷、南向き斜面、北向き斜面、尾根)に着目して計8カ所のプロットを設置し、2013年?2014年にかけて林床環境(光合成有効放射吸収率、土壌含水率、地表面温度)と林床植生(総種数、木本種数、草本種数、多様度指数、被覆面積)を調査した。解析の結果、刈り取り区の光合成有効放射吸収率は、対照区と比較し、年平均で約10%、最小値で約30%低かった。また、ササ密度と光合成有効放射吸収率は総種数、木本種数、多様度指数に対して、負の影響を与えていた。しかし、草本種数に対するササ密度の効果は小さく、光合成有効放射吸収率の効果は認められなかった。また、林床植物による被覆面積は地形(比高)に依存しており、谷部ほど大きくなった。本研究で確認された51種の植物のうち、種子が動物によって散布されるものは65%(33種)を占めており、その割合は木本で特に高かった(木本79%、草本21%)。孤立した二次林では動物散布型の植物が増加することが知られており、このことが木本種数と草本種数の差異に寄与している可能性もある。また、林床植物による被覆面積に光環境が影響していなかったのは、優占種であるジャノヒゲ(被覆面積の51.7%)とヤブラン(被覆面積の24.3%)の耐陰性の高さを反映しているものと推測された。以上のことから、林床植生の特徴(木本種数、草本種数、多様度指数、被覆面積)とその規定要因(地形条件、環境条件)は多様であり、刈り取り管理の再開が必ずしも一様な結果をもたらすわけではないことが示された。

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© 2016 一般社団法人 日本生態学会

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